東京小牧バレエ団『火の鳥』『憂愁』2015

標記公演評をアップする。

東京小牧バレエ団が創作物のダブル・ビルを企画した。佐々保樹振付『火の鳥』と、菊池唯夫・宗振付『ショパン賛歌〜憂愁』である。


佐々版『火の鳥』(92年)は、「小牧正英のエスプリ」を受け継いだ新版。概ねフォーキン版に沿った場面展開だが、カッチェイ手下の踊りをクラシック語彙に変えた点に、大きな違いがある。スピーディな舞踊場面は現代的。だが一方で、視線や繊細な腕使いにより、登場人物の感情を表出させる手法も駆使する。心理の襞に分け入るこのアプローチは、佐々がチューダー門下であることを思い出させた。


火の鳥の倉永美沙(ボストン・バレエ団プリンシパル)は、艶やかで気品ある佇まい。爽やかなイワン王子のアルタンフヤグ・ドゥガラー(同団セカンド・ソリスト)と情熱的なパ・ド・ドゥを繰り広げた。金子綾の情緒細やかなツァーレブナ、田中英幸の存在感あふれるカッチェイも素晴らしい。男女アンサンブルも佐々のストイックなスタイルを体現している。


同時上演の『憂愁』は、ショパンのピアノ生演奏(一部チェロが参加)と美しい映像を背景に、放浪の青年(李波)を主人公としたロマンティックな物語が展開される。青年が精霊たちを夢に見るバレエブランが素晴らしい。振付はアラベスクとパ・ド・ブレのみだが、フォーメイション、首の傾げ方、腕の伸ばし方で、静かな詩情が生み出される。ポアント音は聞こえず。5月の『ジゼル』第二幕を思い出した。


一方青年が、既に結婚していた元許嫁(周東早苗)に出会う夜会は、女性の淑やかさと、男性のノーブルなエスコートが特徴。周東の情感、娘・藤瀬梨菜の純朴、サロンの主人・原田秀彦の粋、その妻・森理世(07年ミス・ユニバース)の美貌が印象深い。ピアノ演奏は斎藤龍、チェロは豊田庄吾が担当した。(12月20日 新国立劇場中劇場) *『音楽舞踊新聞』No.2962(H28.2.1号)初出