井上バレエ団『コッペリア』2016

標記公演を見た(7月24日 文京シビックホール)。関直人版『コッペリア』の特徴は、優れた音楽性に裏打ちされた踊りの数々。民族舞踊から、クラシック・ヴァリエーションまで、関独自の音取り、音楽解釈が散りばめられている。終幕のギャロップでは、踊る者、見る者全てを巻き込む、熱風のようなエネルギーが劇場に充満し、帰路の足取りを軽やかにした。
バランシンの影響を受けた関の作品は、古典改訂であっても、シンフォニック・バレエの要素が顔を覗かせることがあるが、本作は、ロマンティック・バレエの形式を重視し、マイムを多く残している。関の優れた音楽性を舞踊で体験し、細やかなマイムで演劇性を味わえる、理想的な『コッペリア』と言える。
主役は2組。初日のスワニルダは宮嵜万央里、フランツは荒井成也、二日目は西川知佳子、中ノ目知章(ドイツ国デュッセルドルフ歌劇場・デュイスブルク歌劇場バレエ団ソリスト)、その二日目を見た。久しぶりに、井上らしい主役を見た気がする。かつての藤井直子ほどには苛烈ではないが、自分を数に加えない、自己放棄する西川のあり方は、井上のプリマの伝統に則っている。藤井は巨大なオーラで舞台と客席を覆っていたが、西川は無意識の真空とでも言うような、不可思議な求心力を発揮した。パ・ド・ドゥではパートナリングの問題か、滞る部分が見受けられたが、それを物ともせず踊り切ったことは、藤井にも見られた主役にふさわしい美徳である。
中ノ目は、一度見たら忘れられない強烈な個性の持ち主。長身で脚長。正統的技術を持ちながら、熱さをまき散らすようなキャラクター色の強い踊りを見せる。ソロルとか、彼のために作られた物語バレエの主役(何かとんでもなくドラマティックな役柄)を踊りそうな気がする。
コッペリウスの本多実男は、ノーブル寄りの役作り。1幕の可愛らしいスワニルダ友人、ノーブル系を揃えたフランツ友人、チャルダッシュの福沢真璃江、中尾充宏のスタイルを心得た溌剌とした踊りが印象深い。2幕では中国人形の桑原智明が、開脚ジャンプで場を盛り上げ、3幕では、原田秀彦市長が取り仕切って、ディヴェルティスマンを開催。戦いの荒井英之、土方一生、貫渡竹暁のゲスト陣が、爽快な踊りを見せた。団員は関振付の素晴らしさを十全に伝えている。
ロイヤル・チェンバーオーケストラ率いる冨田実里は、前奏曲こそどうなることかと思ったが(ホルンの重奏部分のせいで)、ドリーブの闊達なエネルギーを舞台に滞りなく送り込んだ。