バレエシャンブルウエスト『コッペリア』2016

標記公演を見た(10月8日 オリンパスホール八王子)。『コッペリア』の魅力は、まずドリーブの音楽。ワルツを始めとする舞曲の素晴らしさ、リリカルなメロディ、ドラマティックなオーケストレーションなど、聴く喜びを常に与えるバレエ音楽である。二つ目は「脚のバレエ」であること。版によって多少の違いはあるが、フランス派の細かい脚技が残されている。見る方にとっては楽しく、踊る方にとって苦しいのは、ブルノンヴィル・スタイルと同じ。ロシア風の大技がもたらす爽快感はないが、じわじわと心が浮き立つ幸福感を味わえる。三つ目は、人形が人間に変わる「奇跡のバレエ」であること。もちろんスワニルダはコッペリアの振りをして、コッペリウスを騙しているのだが、舞台上では実際に、体の変容を見ることができる(これを演技で行なうか、体の質を変えて行なうかは、ダンサーの技量、体がいかに細分化されているかによる)。四つ目はマイムの面白さ。演技派の腕の見せ所が随所にある。
今回の上演では、作品のこうした魅力がよく伝わってきた。末廣誠指揮、東京ニューシティ管弦楽団の、豊かでダイナミックな音楽、スワニルダ・吉本真由美の、爪先まで神経の行き届いた正確な足使い、一幕の愛らしい吉本とやんちゃなフランツ・橋本直樹の恋模様に、二幕コッペリウスの切実な願いを含んだコミカルな遣り取り(コッペリウスのジョン・ヘンリー・リードはノーブル系のアプローチを予想したが、やや軽めの造形だった)、さらにオークネフのメルヘン的な美術も加わり、地元八王子の人々はバレエの多様な魅力を堪能したと思う。子供たちの「アハハ」という反射的笑いは、一幕よりも二幕で多発した。一幕での主役二人の演技は、呼吸も合い、体全体に感情が息づいていたが、子供たちにとっては動きの面白さが、笑いのツボだったのだろう。
ベテラン、中堅が要所を締めるなか、「祈り」の伊藤可南、「戦い」の村井鼓古蕗の若手が、伸びやかな踊りで目を惹いた。若いコールドたちの美しいポージングも壮観。スクールの教育の質を窺わせる。