スザンヌ・リンケ「ドーレ・ホイヤーに捧ぐ」FT2016

標記公演を見た(12月9日 あうるすぽっと)。ドイツ表現主義舞踊の伝統を守るリンケ(トリーア市立劇場舞踊芸術監督)によるトリプル・ビル。標題のホイヤーとは、1911年ドレスデンに生まれ、1968年ベルリンで自死したモダン・ダンサー・振付家表現主義舞踊とタンツテアターをリンクさせる重要な役回りを担った。戦前はヴィグマンのグループで踊り、戦後は西ドイツに渡り、ハンブルグ州立歌劇場のバレエカンパニーを率いたが、カンパニーをモダンダンスグループに変えることに失敗し、フリーで踊り始める。クロイツベルク作品や、ヴィグマンの『春の祭典』リメークで犠牲役を踊り、自身の解釈を加えた。その後ヴィグマンのアレンジでニューヨークやニューロンドンで公演、アルゼンチンやブラジルではソロ作品が熱狂的に受け入れられた。一方、当時の東西ドイツでは、モダンダンスの発展や保存は排除されていたため、ホイヤーの活動が注目を集めることはなかった。批評家には評価されていたものの、『Affectos Humanos』(1962)を最後に自殺。87年に、リンケとアリーラ・ジーゲルトが同作を再構築し、ホイヤーの功績に光を当てた。(International Dictionary of Modern Dance, St. James Press)

上演作品は、『人間の激情 Affectos Humanos』(1962/87)、『アフェクテ』(1988)、『イフェクテ』(1991)。面白かったのは、やはりホイヤーの振付を再構成した『人間の欲望』。性別が分からないベテランのレナーテ・グラツィアディ(ラボーアグラス・ベルリン)の実演と、ホイヤー自身の映像を交互に見せる。実演には補遺が含まれているのだろう。振付は、東南アジアの伝統舞踊や五禽戯を思わせる動き、スペイン舞踊、パ・ド・ブレや手や体の震えなど、原初的な動きが満載。グラツィアディの長い腕と大きな手が、ホイヤーの動きのみを追求した振付(意味の反映ではなく)を再生成する。グラツィアディはバレエの基礎を窺わせるが、同時にドミニク・メルシ(ヴッパタール舞踊団)を思わせる脱力的な超越性を備えている。なぜこのようなダンサーが生き残っているのだろうか。もちろんピナ・バウシュとの共通性もあるのだが。もう一度、グラツィアディを見てみたい。