『薄井憲二バレエ・コレクション』の逸品を訪ねて@ダンスキューブ・カフェ2017

標記展示を見た(3月11日)。兵庫県立芸術文化センターが所有する『薄井憲二バレエ・コレクション』は、東京在住者にとって、なかなか目にすることのできない貴重なコレクションである。以前、ニューオータニ美術館での展覧会に足を運んだことがあるが、バレエにまつわる衣裳、リトグラフポートレート写真などから、様々な示唆を得ることができた。今回の展示は、チャコットが経営するダンスキューブ勝どきの2階、ダンスキューブ・カフェで行われている。3月3日から内容を変えて10回開催予定とのこと。第一回は「バレエ・リュスとその周辺」と題し、公演プログラム、ニジンスキー、パブロワ、カルサーヴィナ等の写真、ロマンティック・バレリーナリトグラフ、エルスラーとパブロワの人形、舞台写真、コレクションの紹介映像を見ることができた。

“おいしくしっかり食べて、健やかな身体をつくる”がカフェのテーマなので、バナナフレンチ・トーストを食べながら、写真や映像を見て回った。入り口レジ付近には、コレクションの目録全4巻が2組づつ置かれている。新国立劇場の情報センターでもちらと見たことがあるが、今回全巻をじっくりと眺めることができた。


第1巻は「プログラム・バレエ台本」の目録。プログラムは、バレエ・リュス・オフィシャル・プログラム、バレエ・リュス・ハウス・プログラム、バレエ・リュス・ド・モンテカルロ・オフィシャル・プログラム、バレエ・リュス・ド・モンテカルロ・ハウス・プログラム、オリジナル・バレエ・リュス・ハウス・プログラム、パブロワ、バレエ・スエドワ、イダ・ルビンシュタイン、ローラン・プティ(バレエ・ド・シャンゼリゼ、バレエ・ド・パリ)、パリ・オペラ座バレエ、ロイヤル・バレエ関係、その他の英国バレエ、ロシア・バレエ関係(帝政、ソ連ソ連崩壊後)、ABT(含BT)、NYCB、その他の米国バレエ、ラ・アルヘンチーナ、RDB、イタリア・バレエ関係、マルキ・ド・クエバス・グランドバレエ、クルト・ヨース、サカロフ夫妻、上海バレエ・リュス、日本でのバレエ公演等が収められている。
バレエ台本(年代順)は、ロイヤル・デイニッシュ・バレエの台本が目立つ(元 A. Andersens Lejebibliotek コレクション)。19世紀末の『エクセルシオール』、プティパ作品、20世紀に入るとワイノーネンの『くるみ割り人形』、フォーキンの『カルナヴァル』、ザハーロフの『バフチサライの泉』、ラヴロフスキーの『ロメオとジュリエット』等、ロシア関係が多い。巻末に会場リストあり。


第2巻は「書籍類・雑誌」の目録。書籍には、バレエ・リュス関係の稀覯本、伝記・自伝、バレエ・リュス&バレエ・リュス・ド・モンテカルロ関連、バレエ史関係、バレエ・カンパニー&ダンス・カンパニー、バレエとダンスのテクニック、舞台美術、バレエ音楽、舞踊関係の辞書・事典、年鑑(フランス国立劇場、帝室劇場、英国バレエ)、書誌、写真集等が含まれる。展覧会カタログはバレエ・リュス関係が多く、楽譜には舞踊譜とポーズ写真がついたものもある。雑誌は、主要な舞踊洋雑誌に加え、ダンスワーク舎の『ダンスワーク』が含まれている。珍しいものではオークション・カタログ。個人のスクラップブック(含薄井氏)や、雑誌や新聞の切り抜きには、生の歴史が刻まれている。


第3巻は「アンティーク・プリント・手紙・サイン・切手他」の目録。標題にはないが、ピカソ、チェリチェフ、ラリオノフ、アレクサンドル・ブノワ等の直筆デッサン・デザイン画と、公演ポスターの項目もある。ポスターは1830年から40年代の英国ロイヤル・シアターのものが興味深かった。タリオーニやグリッジがどのような演目を踊ったのかが分かる。アンティーク・プリント(版画)は、カラー印刷で掲載されているので、一つ一つを見る楽しみがあった。衣裳、ポーズ、背景から、どのような作品であったのかを知ることができる(薄井氏の序文によれば、必ずしも一致しないとのことだが)。切手もカラー印刷。バレエから民族舞踊、ブルノンヴィルからベジャールまで多岐にわたる。手紙・サインになると、コレクター熱の核心を感じさせる。ヴェストリス、タリオーニ、バレエ・リュスのプログラム寄せ書き等、文面やサインを誌面で確かめることができる。


第4巻は「衣裳・小物類・写真・ポストカード・ドキュメント他・補遺」の目録。レオン・バクストの「青い鳥」の衣裳、サカロフの長チョッキ、マラーホフのバレエシューズのカラー写真を巻頭に置き、記念バッジ・名札、メダル・コイン、陶器人形、皿、コースター、時計、マッチ、煙草カード等の小物類が続く。膨大な写真は、プティパ夫妻、バレエ・リュス関係、さらに新村英一、原田佳明、熊川哲也が含まれ、往時を偲ばせる(熊川は現役だが)。ポストカードは、ダンサーの写真(ブロマイド)、衣裳デザイン、カリカチュア等。さらに、薄井氏の師である東勇作のメモリアルとして、東の写真、東宛ての薄井氏による葉書、衣裳、指輪、東の陶芸作品、東デザインの陶芸作品、東をモデルにした牧神像が、まとめられている。他に写真家セルジュ・リドのメモリアル、そして増え続けているコレクションの最新版が、補遺として加えられている。


アンティーク・プリントや写真は、目録で見ることができるが、書籍や雑誌の場合は手に取るしかない。兵庫県立芸術文化センターのコレクション書庫に入ったら、どんなに楽しいだろう。劇場博物館のようなものがあれば、と思いつつ、コレクションの片鱗を、カフェの展示と目録で味わった。