バレエ団ピッコロ『不思議の国のアリス』2017

標記公演を見た(12月26日 練馬文化センター 大ホール)。今年は『不思議の国のアリス』の当たり年だった。6月にはカンパニーデラシネラの『ふしぎの国のアリス』(新国立劇場小劇場)、7月にはKAATキッズ・プログラム『不思議の国のアリス』(KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ)が初演され、さらに来年11月には新国立劇場バレエ団が、クリストファー・ウィールドン版を導入する。その間に挟まれた松崎すみ子版『不思議の国のアリス』全二幕は、松崎にしか生み出すことのできないユートピアを実現した。
初演は72年。92年、2014年の改訂を経て、今年クリスマス公演として上演された。松崎版の特徴は、子供の視点から作られていること。ちぎり絵のような大木、うさぎの穴、いもむしが出てくるキャベツの素朴な書割が、大人を童心に返らせる。アリスが大きくなる時は、黒子がリフトし、小さくなる時は子役登場。劇場らしいローテクの楽しさ、面白さがある。音楽は様々な楽曲で構成される。エルガーが婚約者アリスのために創った『愛の挨拶』を始め、英国民謡『グリーンスリーブス』など、原作者の国に因んだ曲や、ワルツ、行進曲、サイケデリックな(?)ロック、連続する金属打音など、場面に適した曲が選ばれている。最初は音源の強弱が気になったが、見ているうちに松崎ワールドに巻き込まれて気にならなくなった。
振付はクラシックバレエから、モダンダンス、ヘンテコダンスと、登場人物によって振り分けられている。主役のアリスと憧れの青年の抒情的なアダージョ、それぞれのクラシカルなソロ、うさぎには技巧的なソロ、さらに青年扮する黒猫とうさぎのタンゴ・デュオも見応えがあった。子供たちによるいもむしの尺取りダンスも面白い。まず松崎が作品世界に入り、自分で動いて生み出したような生き生きとした力が、どの振付にも備わっている。子供たちへの振付は、子供が自発的に踊っているように見えるもの。いわゆる子供らしさを売り物にするのではなく、子供がそのまま肯定され生かされている。
主役のアリスには西田佑子。おっとりした佇まい、清潔な踊りが童話の主人公にふさわしい。子供たちに対しては控えめな慈愛を感じさせた。青年には絵に描いたような好青年の橋本直樹。基本に則った美しい踊り、誠心誠意を尽くす相手との遣り取りが素晴らしい。対するうさぎの小出顕太郎は超はまり役だった。持ち前の献身性、美しい踊りに加え、その場に存在する喜びを爆発させる。3人揃った場面では、通常のバレエ公演では見ることのできない無垢な世界が現出した。
トランプ王国では、ハート、スペード、ダイヤ、クローバー、それぞれの王、女王、王子、兵隊が登場する。気の強いハートの女王には菊沢和子、気の弱い王には小原孝司、共にはまり役である。他の王3人には大神田正美、春野雅彦、須藤悠のゲスト陣が、同じ出で立ちで踊りを競った。またクレイジーティーパーティでは、高橋純一がヘンテコな味を遺憾なく発揮している。
大人も子供も同じ方向を向いた舞台。松崎の愛、善への信頼が、練馬文化センターを満たしていた。