日本バレエ協会 「全国合同バレエの夕べ」 2018 ①

文化庁及び日本バレエ協会主催「全国合同バレエの夕べ」が二日間にわたり開催された(8月3,4日 新国立劇場オペラパレス)。文化庁次代の文化を創造する新進芸術家育成事業の一環である。今年は日本バレエ協会創立60周年に当たり、13支部、本部・東京地区全てが参加する盛況となった。例年よりクラシックに比重があったのは、節目の公演ゆえだろうか。15作品中、モダン・コンテンポラリー系は3作に留まっている。
本企画は新進振付家及びダンサーの育成が目的である。観客にとっては、地方在住振付家の作品に出合い、各支部におけるバレエスタイルの違い、ダンサーの芸風の違いなどを一気に比べる楽しみがある。今回も異色の創作に加え、沖縄から北海道まで様々なスタイルを確認することができた。
初日の幕開けは、東京地区『Classical Symphony Op.25』(振付:マイレン・トレウバエフ)。プロコフィエフの同名曲に振り付けた、物語性加味のシンフォニック・バレエである。作曲家の諧謔味と八幡顕光の積極的な明るさが一致。アンサンブルを従えて首をクネクネさせる振付が効いている。マドンナ佐々部佳代とは結ばれないが、八幡のショーマンシップが炸裂したスピーディな作品。アンサンブルへの優雅なスタイル指導も抜かりはなかった。
続く関西支部の『パ・ド・カトル』(再振付:田上世津子)と、中部支部の『パキータ』(再振付:松岡璃映)は、共にキーロフ由来。ドーリン振付にあるカリカチュアの毒を抜き、ロマンティック・スタイル讃歌を前面に出した前者は、正確なテクニックと控えめなスタイルを、タリオーニ 松本真由美の風格ある統率の下、披露した。禁欲的な見せ方は、芸に厳しい土地柄ゆえか。一方後者は、西田悠乃と碓氷悠汰の華やかなエトワールを芯にしたグラン・パ。生き生きとしたトロワに、アンサンブルも大きく伸びやかな踊りを見せる。「芸どころ名古屋」という言葉を想起させた。
第二部は、北海道支部『Friends』(振付:長瀬伸也)と、甲信越支部紅葉狩り』より「くれは鬼女物語」(振付:塚田たまゑ)。前者はクリスマス・パーティ、後者は信州鬼無里村の祭りと舞台を違えてはいるが、共に物語をベースにしたディヴェルティスマン形式の作品。バロック電子音楽使用の『Friends』は、音楽に自然に寄り添った振付が特徴だった。青年(西野隼人)に恋心を募らせる少女(阿部沙也)の可愛らしいソロ、青年とメガネの女性(太田麻美)の少しコミカルでしみじみとしたアダージョ、酔っ払い女性(根本奈々)の妖しい踊りなど、キャラクターの心情がよく伝わってきた。
一方「くれは鬼女物語」は、星吉昭作曲の様々な日本音楽をクラシック・スタイルで踊る。シモテ奥には紅葉の木、手前に六地蔵、上方に提灯が飾られた広場で、花笠踊り、忍者踊り、紅葉踊り、おかめひょっとこ、扇の舞、越後獅子と笛吹少年、くれはと侍女、平維茂と武士、亡霊、鬼女三人、そして平和観音への祈りが踊られる。くれはの生前、亡霊、鬼女をそれぞれ踊った、東真帆、関理沙子、山田佳歩の正統的踊り、さらに忍者、笛吹少年、平和へのソロを踊った二山治雄の美しい踊りが素晴しい。民謡、日舞、能のニュアンスを滲ませた、日本人ならではの清潔なスタイルを堪能した。
第三部は、沖縄支部『眠れる森の美女』よりパ・ド・シス(改訂振付:長崎佐世)と、山陰支部白鳥の湖』より第2幕(改訂振付:石田種生、指導:若佐久美子)。共にスタイルで見せる古典の名場面である。パ・ド・シスでは、リラの精 渡久地円香の伸びやかなライン、5人の妖精(前田奈美甫、玉城琉美、又吉まこと、渡嘉敷由実、安里友香)の生き生きとした踊りが印象深い。ソリストからアンサンブルまで、スタイルと呼吸の統一があり、しかもそれぞれが自分の意思を持って踊っている。長崎は琉球舞踊とバレエを融合させた独自の舞踊形式を創り出したという(プログラム)。生きた踊りはそれに由来するのだろうか。
一方の山陰支部は来年3月、島根出身の舞踊家、石田種生の生誕90周年記念公演を松江で開催する。演目は『白鳥の湖』。その先駆けとしての第2幕上演だった。石田版の特徴であるア・シンメトリー隊形を加味したオーソドックスな振付を、支部の若手ダンサーたちが踊る。オデットの上野瑞季は、柔らかな腕使い、明快な脚技、しっとりとした行儀のよい踊りで、舞台を静かに牽引した。王子の趙載範は、泰然自若とした佇まいで上野をサポート。混合アンサンブルのため、ポール・ド・ブラの違いが見られるものの、支部全体の熱意が伝わる上演だった。