バレエシャンブルウエスト『眠れる森の美女』2022

標記公演を見た(10月9日 J:COM ホール八王子)。本作はすでに「清里フィールドバレエ」で上演されているが、劇場公演は初となる。今村博明総監督によると「見られる野外と見せる劇場」の違いがあり、「照明、舞台装置、ダンサーの立ち位置、体の方向性、表現の仕方にも、より深い芸術性を求める作業が繰り返される」とのことで、実質的な初演と考えられる。

演出・改訂振付は今村博明・川口ゆり子。両人が踊ってきた英国版(N・セルゲーエフ版系統)に、マリインスキー版(K・セルゲーエフ版)を取り入れ、正統を探った独自の版である。英国版に多い「目覚めのパ・ド・ドゥ」は採用せず、3幕宝石の精を男女4人で踊る演出は踏襲されている(サファイア・ソロなし)。2、3幕は続けて上演、間奏曲として3幕行進曲が使用された。際立つのは多くのマイムが残されていること。Wキャストの若手陣営を見たが、マイムの一つ一つに音楽性と演劇性が息づいている。舞踊における優れたクラシック・スタイルと共に、カンパニーの実力を証明する上演だった。華やかな衣裳(桜井久美)、繊細な映像(立石勇人)、さらに磯部省吾の指揮、大阪交響楽団の演奏が、劇場版初演に大きく貢献している。

主役のオーロラ姫は、初日が松村里沙、二日目が柴田実樹、デジレ王子はそれぞれ江本拓、芳賀望。その二日目を見た。柴田のオーロラはおっとりとした姫。伸びやかなラインを生かし、要所はきちんと決めつつ、ゆったりと踊る。ふわっと風が吹くような不思議な個性である。王子の芳賀は、端正なスタイルの中に熱い想いを滲ませる。2幕リラの精とのマイムの激しさ。物語を生きる虚構度の高い身体で、初々しい柴田を包み込んだ。

リラの精の石原朱莉は、確かな技術に加え、善の世界を行き渡らせる風格と包容力がある。対するカラボスは伊藤可南。黒のロングドレスで邪悪の美をまき散らす。共にマイムに優れ、音楽性はもちろん、芝居を見る喜びがあった。2幕では王子のフィアンセ 深沢祥子が磨き抜かれた演技を見せる。深沢は初日カラボスでもあり、古典の演劇性を象徴する存在と言える。

川口まりの音楽的なフロリナ王女、藤島光太の技巧的な青い鳥を始め、宝石の精(斉藤菜々美、窪田希菜、早川侑希、古郡士英生)、5人の妖精たち(神谷麻依、荒川紗玖良、石川怜奈、坂本菜々、村井鼓古蕗)の行き届いたクラシック・スタイルが目覚ましい。1幕村人のワルツ(女性のみ)、2幕のシルフ・アンサンブル(水の精から変更)はともに、カンパニーの美点である伸びやかで瑞々しい踊りを体現した。

リラのカバリエール 逸見智彦を始め、フロレスタン24世王の正木亮、ギャルソン 宮本祐宣、カンタラビュット 奥田慎也、貴族 吉本泰久のベテランが脇を固める。全体に演技は大仰ではなく自然。貴族 土方一生(初日は青い鳥)のナチュラルな芝居が目についた。