バレエシャンブルウエスト『ドン・キホーテ』2023

標記公演を見た(10月8日昼 J:COM ホール八王子)。昨夏 清里フィールドバレエで上演された短縮版を、全3幕に改訂。演出振付は、今村博明、川口ゆり子、イルギス・ガリムーリン、成澤淑榮による。ガリムーリンと成澤が所属していたモスクワ・クラシック・バレエ版を基にしたとみられ、ザハロフ振付「水兵のジーグ」が採用されている。構成は、プロローグの書斎、1幕のバルセロナの広場、2幕のロマの野営地、夢の場、居酒屋、3幕の貴族の館。ただし公爵夫妻は登場しない。

広場はセギジリアから、野営地はジプシーの踊りからと、華やかな群舞を前面に出すスピーディな演出。マイムシーンは、音楽テンポとの兼ね合いで練り上げられていない部分もあったが、演技指導そのものは細やかだった。1幕トレアドールのナイフは杯に、街の子供たちは少年装の女性ダンサー1名に置き換えられている。マイルドで洗練された趣を与える演出だが、ガリムーリンによるものなのか。居酒屋ではカルメンシータ、エスパーダ、メルセデスジーグ、貴族の館ではファンダンゴボレロ、グラン・パと踊られる。キューピッドと小キューピッドは行進に加わるも、踊りはなかった(小キューピッドの可愛らしさが際立つ。オーディション選抜したとのこと)。

主役のキトリとバジルはWキャスト。マチネは川口まり、藤島光太、ソワレは柴田実樹、山本帆介、そのマチネを見た。川口は持ち前の美しい古典のフォルムに、ピンポイントの音楽性を駆使、精緻なきらめきを発散させた。まだ少し生硬なところもあるが、場数を踏むことで、創作物における情感の豊かさを生かせるようになるのではないか。対する藤島はアメリカ仕込みの華やかな技巧を惜しみなく放出。舞台に華やぎを与えた。川口との呼吸も向上し、安定したパートナーシップを披露している。

ドン・キホーテの逸見智彦は、高潔な精神と狂気のはざまをノーブルに表現。サンチョ・パンサの染谷野委は可愛らしいちゃっかり者、主人への愛情にあふれる。ガマーシュのバトムンク・チンゾリグは大きく明快なマイムと勢いある踊りで、一途ゆえに滑稽な貴族を巧みに演じ、ベテラン奥田慎也のロレンツォがゆったりと芝居陣をまとめた。

エスパーダはスタイリッシュな橋本直樹、街の踊り子は婀娜っぽい土田明日香、キトリ友人はくっきりとした河村美希、少し控えめになった村井鼓古蕗、ジプシーソリストは情熱的な吉本真由美と粋な土方一生、森の女王はベテランの松村里沙、キューピッドは可愛らしい橋本紗英、カルメンシータは上品な深沢祥子、メルセデスは艶やかな鈴木愛澄、ジーグは岩崎美花、早川侑希、巻孝明、鈴木諒が技を競い合った。早川はボレロでも嫋やかな井垣美穂と組んで、大きく力強い踊りを見せている。グラン・パの女性ヴァリエーションは阿部美雪、石原朱莉が務めた。男女アンサンブルはスタイル、音楽性共に統一されている。特にファンダンゴはバレエマスター江本拓のフォルムが透けて見えた。

ダンサーたちは所属スクール出身者とオーディション組の混成チーム。アンサンブルではスクール出身ならではの統一されたスタイルが、ソリストでは自分を主張するオーディション組の闊達さが際立つ。これまでゲストに頼ってきた男性陣も所属ダンサーが増えて、活気あふれる踊り合いを見ることができた。

指揮は磯部省吾、演奏は大阪交響楽団による。マチネでは所々舞台との齟齬が見られた。特にマイム時のテンポは指導者とのコミュニケーションを望みたい。音響が良すぎるせいか、打楽器の音量が気になったが、生演奏の迫力は舞台にも客席にも伝わっている。