12月の公演感想メモ(旧Twitter)2023

新国立オペラ『こうもり』、久しぶりに見た。シュトラウスの音楽を聴いていると、R・プティの振付が思い出され、胸が締め付けられる。プティの絶妙な選曲、振付の音楽性、独創性は傑出している。『コッペリア』もいいが、傑作バレエ『こうもり』もぜひ再演して欲しい。本作バレエ・シーンは東京シティ・バレエ団(再振付:石井清子)。男性5人(吉留諒、福田建太、杉浦恭太、西澤一透、大川彪)が、ロザリンデを囲んで踊る場面は、ギャラントリーにあふれる。特に前半のトップを踊った福田は、ロザリンデのマルグエッレと全身でコミュニケーションを取り、輝かしい場面を創出。音楽の喜びにあふれていた。後半トップの吉留は美しい踊りを見せたが、少し人見知りか。新人の大川は先日の「シティ・バレエ・サロン」で美しいソロルを踊ったばかり。今回も舞踏会にふさわしく、ノーブルなパートナリングを見せる。燕尾服がよく似合っていた(カーテンコールには石井も登場した)。

オラフ・ツォンベックの書割のような装置、アールヌーボーの洒落た衣裳が素晴しい。この後、牧阿佐美版『くるみ割り人形』の美術・衣裳を担当、繊細な舞台を演出した。花のドレスの美しさは忘れ難い。 音楽面ではフロッシュが歌を歌ったこと、主役陣の伝統芸能のような芝居の巧さが印象的。アルフレードの伊藤達人は声もあり、芝居にも優れる稀少な日本人テノール。西洋人座組でも互角、声を聴くだけで嬉しくなる。(12/6 新国立劇場オペラパレス)12/7初出

 

女屋理音振付『PUPA』、シアタートラム・ネクストジェネレーション〈フィジカル〉の第1弾。鈴木春香、Aokid 出演に惹かれて見た。やはり二人のベテランは凄かった。鈴木を初めて見たのは康本雅子『全自動煩悩ずいずい図』。技量も素晴らしいが、肉体提示の潔さがずば抜けている。この人誰? 今回も的確な振付解釈と自由な運用、その場で体を出し切る肚の決まり具合に見惚れてしまった。「EU中心に5ヶ国で就労」とあるが、何度自分を脱ぎ捨てたろう、何度裸で踊ったろう、と思わせる。百戦錬磨のプロだった。

一方 Aokid は自分を捨てることなく、その場に馴染んで、いつの間にか作品に浸潤。最後はAokid の空間と化してしまう。ドラムの家坂清太郎との掛け合いは、女屋コンセプトとはあまり関係なく、フリージャズとフリーダンス。楽しかった。PPトークのハラサオリも強烈。明晰な思考と批評性。Aokid 作品で踊った娘らしいハラから、女傑へと変貌を遂げている。(12/8 シアタートラム)12/9 初出

【追記】康本作品で思い出したが、康本の包丁捌きは何なのか。西部劇のガンマンがピストルを捌くように、包丁を捌く。優雅で自然。なぜあれほどまでに習熟したのだろう、謎。以下は公演の感想メモ。

康本雅子『全自動煩悩ずいずい図』。体の快感を基底に、内外の民族舞踊を取り入れ、歌、芝居を加えたタンツテアター。ポップな和風設え、畳の上で踊る。ダンサーの質の高さ。康本の自在、包丁捌き、鈴木春香の虚構度の高い体、菊沢将憲のエロス(康本との足指交感)が素晴らしい。 100分は長いが。(8/19 KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ)8/20 初出

 

山崎広太@シンポジウム「アートがまちをかえていく」(共生社会の実現に向けた港区文化芸術ネットワーク会議)。wwfes で港区の助成を受けている山崎が登壇。他は「芸術と子どもたち」の中西麻友氏、STスポットの田中真実氏。山崎はアーティストとしての活動歴、ダンスと社会の関わり方について語った。山崎の語りはダンス。内なるイデアに向かって即興的に喋るので、聞き手はパフォーマンスを見ている気分になる。いつもダンスを見ながらメモを取るが、この時も同じ感覚で山崎の言葉をメモしていた。思考の思いもよらない跳躍、ディメンションの鮮烈な切り替え、時空を自在に飛び回る言葉達。中西氏の語りもやや山崎寄りで、思考の軽やかなステップを感じさせた。司会の戸館正史氏(港区みなと芸術センター参与)が「ここからは分かりやすいですよ」と述べた田中氏の語りは、社会化された言語で相手に情報を正しく伝えようとする。山崎時とは反対に、なぜかメモを取ることができなかった。

気になったのは、山崎の「2021年の wwfes は大失敗」という言葉に、二人が「失敗してもいいのだ」という受け方をしていたこと。山崎は主舞台のスパイラルホールとサテライトの循環がなかったことを指したと思われるが、体育館化したスパイラルは混沌そのものだった。山崎にしかできない所業である。(12/22 男女平等参画センターりーぶらホール)初出12/24