首藤康之「DEDICATED IMAGE 2012」

文化庁平成24年度優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業として、首藤康之をフィーチャーした標記公演が行なわれた(10月21日 KAAT神奈川芸術劇場ホール)。
1時間の公演(休憩なし)。少し短い印象も。全体にダンサー首藤讃歌のコンセプトで、新しい境地を見せるというよりも、首藤ファンの期待に沿った構成だった。
冒頭の『Between Today and Tomorrow』は、椎名林檎の音楽に、中村恩恵が振りを付けた小品。いわゆるコンテンポラリー風の振付を首藤が踊るのだが、サイズの合わない服のような居心地の悪さを感じる。あっという間に終わった。
続く『The Afternoon of a Faun―ニジンスキーへのオマージュ―』は映像作品。首藤は以前、ストレートプレイで、ニジンスキーの舞踊場面を踊ったことがあるので、牧神姿に違和感がない。操上和美の舐めるような視線(カメラ)が、首藤の肉体を這っていく。その官能的視線を一身に受けて、首藤は捧げ物としての肉体を顕現させた。ただし映像の中で。
最後はイリ・キリアンの『ブラック・バード』から想を得た『WHITE ROOM』。中村恩恵の振付で、映像部分は操上が担当する。作品の美的コントロールは、やはり操上が行なっているように見える。中村もダンサーとして登場するが、あの強烈な個性でさえ、操上の世界に組み込まれている。男声コラールでの首藤と中村のデュエットは、中村が主役。宗教的法悦を求めるような、官能を全身にみなぎらせた中村の肉体に対し、首藤はサポートで対抗することができない。しかしイゾルデのアリアでのソロでは、首藤康之アウラが舞台を覆った。美・芸術・想像の世界でしか生きられない男。そうして見ると、官能のみを追求する中村とは、意外に相似形なのかも知れない。