新国立劇場バレエ団「Dance to the Future 2013」

新国立劇場バレエ団公演「Dance to the Future 2013」を見た(3月26、27日 新国立劇場中劇場)。因みにボックスオフィスのチケット販売状況掲示板にNBJ(The National Ballet of Japan の略称)の表示があって、少し驚いた。世界でこの略称が流通する日が来るのだろうか。海外公演を打つ日が来るのだろうか。ビントレーが続けていれば、少しは可能性があったのか。でもアウトリーチもできない劇場(構造)では。。。まずは国内ツアーができるようになることが先決だ。

プログラムは中村恩恵振付が3作品、金森穣振付が1作品。昨年の平山素子一人の同企画と比べると、配役が適材適所になっていない気がする。二人で分けて、バレエ団の要求を加えるとこうなったのか。仕上がりの良さでは、やはり唯一の新作、中村の『What is "Us"?』がダントツだった。
中村はキリアン色濃厚な『The Well-Tempered』、東洋的動きを取り入れたソロ『O Solitude』、そしてバレエのポジション、パをモチーフにしたこの新作を担当。古典を踊るバレエダンサーに振り付けることで、こうした作品になったのだろう。長田佳世と江本拓が下手奥から、アン・ナヴァンの腕でバレエ歩きするシークエンスが美しい。長田の完璧に意識化されたクラシックの脚、そのねっとりと艶のある美しさは、クラシックダンサーにしか出せない味である。またエポールマンをモダンな動きにかぶせるのは、江本の得意技である。
だが何よりも作品の存在意義は、福岡雄大のソロにあった。このところ海外出張を控えて、今一つ個性を発揮できなかった福岡だが、この作品で爆発した。福岡にジャストフィットした初めての役(パート)かもしれない。福岡の実存が迸る踊り。中村の提案よりも細分化された動きをしているのだろう。Kバレエスタジオで鍛えられた足腰の強さ、鮮やかで力強い腕の動き、動きそのものへの集中力。ビントレー、サープ時の踊りが嘘のようだった。金森作品でも唯一、金森の動きを実現している(金森穣ソフト版)。

金森作品は『solo for 2』。新国立劇場新潟市民芸術文化会館により共同制作された『ZONE』の第一部を改訂、「NHKバレエの饗宴2012」でNoismが上演した作品。昨年末のKAAT公演でも再演されている。核となる井関佐和子のパートには米沢唯。大いに期待されたが、残念ながら金森の動きを消化できていなかった。これは一月のバランシン、ビントレー、サープ作品にも言えることだ。古典であれだけ成熟した舞台を見せる米沢が、モダンになると、つまり動き自体に振付家の個性が反映されると、なぜか幼く見える。あるいは物語のあるなしで、アプローチが違うのだろうか。組んだ福岡が華やかで重心の低い踊りを見せた分、ひょこっと軽く、人形っぽく見えた。
音楽はバッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ』を使用、渡辺玲子の演奏だったが、本家Noismに比べるとまだ丁々発止とは行かない。その中で、第一番クーラントを踊った小口邦明=小野寺雄(26日)と福田紘也=宇賀大将(27日)の若手二人組は、音楽と呼応する躍動感あふれる踊りで、金森の特徴である覇気を体現した。

パーセルの歌曲に振り付けられた中村作品『O Solitude』でも、若手が実力を発揮。初日の宝満直也は、体を真正面からぶつける素の魅力で、存在感あふれるソロを踊り、二日目の五月女遥は、繊細な音楽性、動きに対する鋭敏な理解力で、振付の機微をあぶり出した。