WWFes2013 神村恵・宮河愛一郎・村松稔之@田村友一郎

WWFesプログラム、田村友一郎の即興ストラクチャー公演《D.H.L》を見た(10月20日 森下スタジオB)。ダンサーは神村恵、宮河愛一郎、石和田尚子、柴一平、根岸由季、山井絵里奈。田村友一郎は、昨年の WWFes でキュレイションをめぐるラウンドテーブルに参加。レジデンシャル・アーティストとしての経験を発表したが、それがとんでもなく面白かった。ヨーロッパのどこだか(メモしなかった)で、部屋を一つ与えられ、一週間に一回、部屋にいろんな仕掛けをして、他人に開放したとか、ジョン・ケージ生誕か没後何年かのイヴェントとして、ケージの記念ディナーを企画し、料理自慢の本物の刑事に腕を揮ってもらった、とか。自分はアーティストではないとも語っていた。アーティストにしか見えなかったが。
18時の開演時間きっかりに開場。スタジオに入ると、ホワイトボードの前に5人のダンサーが立っていて、床に青年がうつぶせに倒れている。傍に黒いデイパック。宮河が顔見知りの観客に「俺たちも何をするのか知らされてないんだよ」。18時15分になると BAL の印牧さんが「田村さんからのディレクションです」とホワイトボードを示した。「Face the sudden death of his life. How we lament for his days.」とあり、「これから30分で、彼の死を悼んでください、ただし言葉を使ってはいけません。丁度30分後にクライマックスがくるようにしてください。」と述べて、公演が始まった。ダンサー達はじっと考えて、まず青年を仰向けにし、宮河が青年の衣服を整え、神村が彼のと思しきデイパックを開けて、中身を取り出す。分厚い楽譜、おにぎり、ペットボトル、お菓子など。宮河がティッシュを取り出し、青年の顔の上に乗せ、拝む。また女性ダンサーの一人と並び、青年のお菓子を二人で食べる。神村は90度シンメトリーで青年と同じ仰向けになる。柴は踊り、神村と女性ダンサーが両足裏を合わせて床にころがる。柴が青年を起こして、支え、皆で円になって体をふるわす(降霊術風)。神村は体で青年の中に入ろうとし、宮河は地に足の着いたやり方で、青年の死に向き合う。ダンサー一人一人が体を使って青年の死を悼んだ。青年を両脇から支え、立ち上がらせ時、どこからか天の声が聞こえた。少ししてそれが死体である青年の口から流れ出していることに気がつく。ダンサー達は歌声につられるように、青年を取り囲んで去って行った、18時38分頃(少し短い)。
青年の名は村松稔之(としゆき)。カウンターテナー。田村の指示は「30分位になったら歌う」だった。日生劇場11月公演『リア』(アリベルト・ライマン作曲)のエドガー役でアンダーに入っていて、その一部を歌ったとのこと。歌声はもちろん、死体としての身体性も素晴らしく、田村の人と人を結び付け、場を作る才能に改めて感動した。
歌が聞こえると、ダンサー達はとたんにその支配下に置かれたかにみえた(きっかけが欲しかったのかもしれないが)。言葉を使えないダンサーの寄る辺なさを感じると同時に、野蛮さも感じた。言葉なしの欠陥を特権に反転させる強さ。一声でダンサーを剝き出しにした、真にクリエイティヴな空間だった。