東京小牧バレエ団2013トリプル・ビル

標記公演評をアップする。

東京小牧バレエ団がオリジナル作品を含むトリプル・ビルを上演した。『レ・シルフィード』、『新世界』より第二楽章、『マタハリ』というプログラムである。


幕開けの『レ・シルフィード』は芸術監督佐々保樹による改訂振付。同団アンサンブルの、現代女性とは思えない淑やかさと細やかな足捌き、ロマンティックな森の風景、青白く繊細な月明かりが、幽玄なシルフの森を出現させた。プリマ・バレリーナにはゲストの長崎真湖。床に吸い付く無音のポアントワークが素晴らしい。抜きん出た技術の持ち主である。『コッペリア』のゲスト出演時には、現代では廃れたかに思われる古風なスパニッシュを踊り、出身地沖縄に残された正統的なバレエスタイルの存在を知らしめた。ただゲスト出演では、体の奥底に眠る豊かな感情を解き放つことは難しい。長崎の美点が生かされる環境を望みたいところ。詩人はセルゲイ・サボチェンコ。少し癖のある踊りながら、ノーブルな佇まいをよく心掛け、ワルツの津田康子、プレリュードの金子綾、コリフェの長者完奈、山口麗子(全員交替配役)も、慎ましやかな踊りでアンサンブルを率いた。こうした古風な趣は他団では見ることができない。


続く『新世界』は、ドヴォルザークの同名曲を、バレエ団創立者である小牧正英が63年前に演出振付した作品。今回は「遠き山に日は落ちて」のメロディで有名な第二楽章のみの上演で、佐々が指導、森山直美が振付をした。村の男女3組が、畑仕事の合間に自然の中で戯れる姿を描いている。森山の振付は今どきのシンフォニック・バレエに比べるとスタティック。一音一音に動きを嵌めるのではなく、フレーズで音楽の情緒を表現しているからだろう。振付は男らしさ、女らしさが強調され、しっとりとした情感を醸し出す。全体に佐々の美意識が反映されているような気がする。装置は無く、アース系の落ち着いた色合いの衣裳(初演時の美術・衣裳は小磯良平)のみで、穏やかな牧歌的世界を描き出した。長者、藤瀬梨菜、金子の女性陣は音楽的でリリカル。対するゲストのモンゴル男性陣、ラグワスレン・オトゴンニャム、チンゾリック・バンドムンク、ビヤンバ・バットボルトは、端正な踊りとノーブルな佇まいが際立っていた。特にオトゴンニャムの美しいラインは、ダンスール・ノーブルの証である。


最後は、総監督菊池宗振付、酒井正光改訂振付の『マタハリ』。『パリの喜び』と伝説の女スパイ、マタハリの生涯をクロスさせたレビュー色濃厚な作品である。マレーネ・ディートリッヒの歌(録音)、オッフェンバックサラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』を組み合わせ、映像も駆使して、当時のパリの雰囲気を再現する。マキシムのディヴェルティスマンは見応えがあった。マダム森山の采配の下、マタハリ周東早苗の妖艶な踊り、フランス大尉原田秀彦の勇ましい踊り、花売り娘藤瀬の可憐な踊り、三枚目の支配人バットボルトと副支配人オトゴンニャムの超絶技巧が次々に披露される。合間に、カンカン娘、紳士淑女のワルツが場を華やかに彩った。森山の懐の深さ、原田の冷徹な色気、長者の美しいドレス姿、カンカン娘の品の良さが印象深い。


例によって内藤彰指揮、東京ニューシティ管弦楽団の優れた演奏が、舞台に大きく貢献している。(11月2日 新国立劇場中劇場) *『音楽舞踊新聞』No.2918(H26.2.1号)初出

昨秋の公演。年末の総評でトリプル・ビル収穫の中に入れなかったのは、森山の振付がどれだけ佐々に依存しているのか分からなかったのと、菊池作品がレビューに傾いていたため。ゲスト陣に支えられているのは、必ずしも問題ではない。芸術が発生する場を作ることが重要だから。佐々は振付家としても、古典改訂者としても、教育者としても優れている。本来なら芸術監督としての職務を全うすべき人材(現時点ではそうはなっていない)。適材適所にならない日本。