アイザック・エマニュエル『ANICONIC』

標記公演を見た(3月26日昼 STスポット)。なぜ見たかと言うと、主催が舞踊批評家の武藤大祐だから。どのような作品を持ってきたのか、興味があったから。
フロントアクトとして、出演者の一人スルジット・ノンメイカパムによるソロ『One Voice』があった。スルジットはインドのマニプル州出身。主要言語はマニプリ語。ミャンマーに接しているので、東南アジアの文化も混在している。かつては王国だったが、現在はインド連邦の州となる。インド軍による人権侵害、インド本国の搾取による貧困など問題を抱える(スルジットの他公演『Calling』のチラシより)。本作は「拷問」をテーマとし、来日に際して、マニプル州のNGO「人間から人道へ―トラウマと拷問に関する超域文化センター」の助成があった(本公演のプログラムより)。
スルジットが椅子に座り、前には電気スタンド。男性の写真を手に持ち、祈るような身振りをする。拷問で亡くなった人への哀悼だろうか。その後立ち上がり、ほぼ定位置で様々な動きをする(人差し指で自分の胸を正面から突き刺すなど)。時折、伝統舞踊の手や足の動き、腰を落とすフォルムが見えて、その美しさに驚く。なぜコンテの道に入ったのだろう。最後は着ていたシャツを椅子に掛け、自分は客席に座り、拍手をした(意味は理解できなかったが)。
『ANICONIC』ではスルジットはじっと仰向けになったり、うつ伏せで反り返り、シーソー動きをしたり、水を飲んで吐いたりと、一ダンサーに徹していた。主催者武藤の「スルジットがもし来日できなかったら、自分が出演するしかないと思っていた」というツイッターを読んでいたので、いちいちこれは武藤でもできる、とか確認しながら見てしまった。一部、二部はそれなりにできるかなと思ったが、三部の水を飲んで吐くのは難しいような気がした。体全てを捧げなければできないから。
作品は質が高く、面白かった。一部、二部は白井剛を思い出した。物、空間、動きの切り取りが理系に思える。だが三部は白井にはできないだろう(唾交じりの水浸しで尻移動、背中移動あり)。作品の全てを見ることができたのは、エマニュエルの思考に曇りがないから。プラス、自由な空間でもあった。そこに居て楽しいと思えた。エマニュエルの思考が体と乖離していないから?