Kバレエカンパニー『ラ・バヤデール』新作

標記公演を見た(3月24日 オーチャードホール)。
まず久しぶりに聴いたミンクスの音楽に魅了された。プログラムによると、オリジナルの痕跡を最も忠実に残していると思われる2009年ケンブリッジ出版のピアノ譜に当たり、グリゴローヴィッチ版やランチベリー版を参考にして、独自の版を作り上げたとのこと(楽譜の修正作業は、音楽監督福田一雄を中心とした音楽スタッフによる)。
演出の熊川哲也は「プティパ復元版(ヴィハレフ版)を基に試行錯誤しながら削ぎ落としていくと、どうしてもマカロワ版に似てくる。方向性は近いが同じことはしない。」と語る(プログラム)。二幕構成の一幕は、寺院の外、ラジャの宮殿、宮殿の庭、二幕は寺院の中、影の王国、寺院の中、崩壊した世界となっている。演出で目についた点は、一幕苦行僧の踊りが多い、バレエダンサーではない肉付きのよい僧侶たち(カンフーをやりそうな迫力、婚約式にも象使いで登場)、宮殿の初っ端にチェスをする友人たちの踊り(チェスを指しながら踊る)、婚約式のディヴェルティスマンは壺の踊りがなく太鼓の踊りがある、花籠はソロルが渡す、二幕寺院の中でソロルが阿片を吸った時、奥の金の神像がチラと動く、ニキヤを追う自分を見るソロル(身代わり使用)、影群舞の間をソロルが縫うように歩く、ソロルが夢から覚めないまま、ガムザッティは白蛇(ニキヤの化身)にかまれて死ぬ、寺院崩壊後、瓦礫の中で金の神像がソロを踊る、手前から白い布が翻り、スロープを覆う、その上をニキヤに向かってソロルが歩いていく、天上から白いスカーフが二人の間にかかる等。またニキヤの一幕ソロ(2つ)が少し短縮されている。影の山下りは、ゆっくりめのテンポ。Kバレエはいつもアップテンポなので、意外だった。
美術はディック・バード。新国立劇場バレエ団の『アラジン』と『火の鳥』、スターダンサーズ・バレエ団の『くるみ割り人形』では、童話の絵本のようなタッチが特徴的だったが、今回はもっとリアルで混沌とした迫力がある。影のシーンはオーロラかラビスラズリのような黒とブルーの色合い。終幕は大地がうねる混沌とした風景。直前の公演紹介ドキュメンタリーでバードは、影のシーンのために巨大な罌粟の花の原画を提示していた(阿片の連想?)が、熊川がこれではニキヤの影ではなく、罌粟の妖精に見えると却下していた。恐らく熊川の要望をかなり汲んだ美術なのではないだろうか。
ニキヤの日向智子は繊細で丁寧な踊り、ソロルの池本祥真はよく開いた脚で、美しく躍動感にあふれた正確なヴァリエーションを見せた。はまり役だろう。ブロンズ・アイドルの益子倭、マグダヴェヤの井澤諒、パ・ダクシオンの福田昂平を始めとする男性ダンサーの技術の高さと、女性ダンサーの音楽性はKバレエの特徴である。ダンサーが定着しないのが不思議なところだが、外に出た元Kバレエダンサーは、あちこちでバレエ団の教育レヴェルの高さを証明している。