新国立劇場バレエ団『アラジン』2016 (2)

標記公演を見た(1の続き)。配役で最も驚いたのは、井澤駿のジーン。元々ビントレーは本来のジーン像とは反対に、小柄で個性の強いダンサーをイメージして振り付けをした(早い回転技、細かいステップの連続)。初演の吉本泰久や再演の福田圭吾はこのタイプ。初演の中村誠は妖しさで勝負したが・・・井澤は、海老蔵のようなヌーっとした存在感で勝負。アラジンと母の目前に浮かぶ登場シーンは、怖ろしいまでの迫力があった。「俺は寝ていたのに、目がパッチリ覚めた。誰が起こしたのだー」のマイムを初めて見た気がする(母は、アラジンですぅ、と答えていた)。総踊りの終幕は井澤が場をさらって、主役のような印象を後に残した。当日と最終日には、高崎市長の後援会婦人部が大型バス数台で乗り付け、劇場は帝劇や明治座のような雰囲気に包まれたが、群馬出身の井澤と関係があるのだろうか。
ジーン初日には肩幅の広い池田武志が配され、異人ぶりを発揮した。大原芸監は、振付との齟齬はあるにしても、大きいジーンでやらせてみたかったのだろう。2回目の福田は、人柄の良さが滲み出る、人間味あふれる役作り。プリンセスとの心からの合掌挨拶が、目に焼き付いている。
主役キャストは3組。福岡雄大のアラジンと小野絢子のプリンセスは適役。見た目のバランスもよく、美しい踊りを披露した。ビントレー振付はパ数が多く、古典美を追求するのが難しい(以前『テイク・ファイヴ』で、菅野英男が古典と同じような精度で振付を実行したら、怪我をした過去がある)。福岡は初演時よりもやんちゃ度は低くなったが、難度の高い振付に美しさを加えて、バレエ団の要としての気概を示した。
奥村康祐と米沢唯は、細やかな演劇性が特徴。米沢の生きた演技は、常に舞台を注視させる。ややサポートに不安を残す相手パートナーだったが、恐れを微塵も見せず、輝かしい踊りに終始した。奥村は母子再会シーンや「砂漠の風」女性アンサンブルに囲まれる時、居心地が良さそうに見える。ダイヤモンドの振り真似を誰よりも美しく踊った。もう少し体力、筋力のアップを期待したい。
八幡顕光と奥田花純は、ビントレーの音楽性を隈なく実現した。八幡が冒頭、踊り出した途端に、振付の句読点がはっきりする。完璧なタイミングに、指揮のポール・マーフィも俄然乗り気になり、その結果、我々は、カール・デイヴィスの魅力を十二分に味わうことができた。役を作ったダンサーだけあって、振りの意味がよく伝わる。奥田は音楽を生きる力、踊りのダイナミズム、勇敢な舞台姿勢に美点がある。特に再会のアクロバティックなパ・ド・ドゥは、躍動感にあふれた。踊る喜びを最も感じさせた組。
公演途中からではあったが、感情豊かな菅野英男のマグリブ人、コミカルで情の深い楠元郁子と丸尾孝子のアラジン母、鷹揚なサルタン、貝川鐵男、初演時よりアラジン友人の江本拓は、最後の縦回転こそ簡略化したが、生き生きと美しい踊りを見せた。宝石たちは適材適所。ルビーの長田佳世はロシアのゴージャスなプリマそのもの。奴隷の中家正博の濃厚な踊りと共に、ディヴェルティスマンの核となった。サファイア本島美和の美しさ、木村優里の豪華さ、研修所2期生3人組も活躍。中でも寺田亜沙子は美しい肢体で、エメラルドやジーン・アンサンブルを牽引した。東京フィルの演奏にも満足。