東京バレエ団✕新国立劇場バレエ団 団員振付公演 2023

東京バレエ団新国立劇場バレエ団が踵を接して、所属団員による振付作品集を上演した。前者は「Choreographic Project 2023」(3月18, 19日 東京バレエ団 Aスタジオ)、後者は「DANCE to the Future 2023」(3月24, 25昼夜, 26日 新国立劇場小劇場)である。所見日はそれぞれ18日、24日と25日昼。

斎藤友佳理東京バレエ団芸術監督の「共に舞台に立つダンサー自らが作品を創ることで、振付者・出演者双方の創造力・表現力を刺激し合い、アーティストとしてモチベーションを高めてもらいたい」(公演リーフレット)との思いは、新国立劇場バレエ団元芸術監督デヴィッド・ビントレーの考えと共通する。ビントレーはさらに「新しい振付は、バレエ芸術の生命力であり、その偉大な歴史や豊富なレパートリー作品にかかわらず、新しいバレエ作品なくしては、私たちに未来はなく、単に過去の作品が並ぶだけの博物館になってしまいます」と語り、創作の意義を伝えた(2013年公演リーフレット)。新国立はビントレー監督指導のもと、2012年に団員創作企画を開始、東京バレエ団は今回が6年目となる。

 

東京バレエ団「Choreographic Project 2023」

プログラムは、岡崎隼也振付『運命』より、ブラウリオ・アルバレス振付『アツモリ』、加藤くるみ振付『What a Wonderful World』、木村和夫振付『fruits of wisdom』、岡崎振付『cube』、アルバレス振付『OMIAI』。木村、アルバレスはバレエベース、岡崎、加藤はコンテンポラリーダンスの振付だった。

木村作品は、樋口祐輝、大塚卓出演によるデュオ。バッハの無伴奏パルティータ第2番「アルマンド」(ギター版?)を使用する。冒頭タイツ姿の大塚が登場、客席を鏡にしてポジションをチェックする。その美しさと見立ての巧さ。ロビンズの『牧神の午後』を想起させる。そこにアロハシャツに半切れズボンの樋口が、チャラチャラと登場。口笛を吹きながらガム嚙みながら、といった風情でレッスンを始める。横目で大塚を眺めながら少しづつちょっかい。大塚もつられて跳躍、回転を試みる。最後は樋口に覆いかぶさられ、訳の分からない言葉を発し始める。樋口はニヤリとして何もなかったようにレッスンを続ける。

かつて秋山瑛と足立真里亜に振り付けた女性デュオ同様、ダンサーの資質を見抜いた音楽的デュオ。木村によると、音楽からパが思い浮かぶ、それをストーリーに合わせて調整していくとのこと(アフタートーク)。一見シンプルに見えるが、全てが音楽と濃密に一致した珠玉の作品である。プロダクションノートにある「バレエに実直な男」とは木村自身のことだろう。バレエ団に入り、「昇華する回転、飛翔する快感、汚れたモノの中に有る美しさ」という「禁断の果実」を食していった自画像を作品化したとも言える。大塚の作品理解の深さ、樋口の不良っぽい華が、優れた男性デュオを作り上げた。女性版共々、レパートリー化を期待する。

観客賞を取ったアルバレスの『OMIAI』は、グノーの『ワルプルギスの夜』を使用。谷崎潤一郎の『細雪』をモチーフに創作された。長女夫婦、長男夫婦(同性婚)、次女、三女が顔を揃える一家と、裕福な一家がお見合いをする。世話役は知り合いの美容師で、アシスタントを伴う。次女と一人息子のお見合いだが、息子は三女を所望。次女はアシスタントと戯れに踊る。ダンサーの個性が全開した物語作品。アルバレスによると、プライベートでダンサーを観察し、「嘘をつけないような配役」にしたという(アフタートーク)。

次女の秋山は佇むだけで情感に満ち溢れる。一人息子に拒絶される芝居の巧さ。アシスタント山下湧吾との格差パ・ド・ドゥが素晴らしかった。対する山下は陰のある美しさ、パートナーを受け入れる自然な温かさで、アシスタントの報われない愛を雄弁に描き出した。美容師の伝田陽美もはまり役。切れのある細かい動きに、市川崑細雪』同役の横山道代を思い出した。一人息子を演じた大塚はアラン系のぼんぼん。コミカルな演技も的確だった。

同じくアルバレスの『アツモリ』は、石井眞木の音楽を使用したベジャール風の作品。自ら学ぶ能の影響を受け、平敦盛の魂の行方を描いた。岡崎作品『運命』よりは1時間物に向けての試作、『cube』は3人の女性が踊る抒情的なコンテンポラリーダンスだった。加藤初振付の『What a Wonderful World』は男性3人、女性2人による瑞々しい作品。コンテ語彙に対する丁寧な眼差しがある。

 

新国立劇場バレエ団「DANCE to the Future 2023」

プログラムは、池田理沙子振付『Ray of light』、福田紘也振付『echo』、柴山紗帆振付『L'isle Joyeuse 喜びの島』、福田圭吾振付『After the show』、福田(圭)振付『Resonance』、最後にアドヴァイザーの遠藤康行による『3 in Passacaglia』(2012年)が男女トリオ(2キャスト)によって踊られた。

完成度の高さで言えば、ベテラン福田(圭)の『Resonance』が筆頭に挙げられる。男女4組がミカエル・カールソンの音楽に乗って4つのパ・ド・ドゥを踊る。シルエットで始まり、シルエットで終わるスタイリッシュなネオクラシック。途中全員で踊る場面も。池田理沙子・宇賀大将は若々しさ、中島瑞生・五月女遥は粋な味わい(五月女パ・ド・ブレの雄弁)、廣田奈々(二日目から奥田花純が代役)・渡邊峻郁はリフト多用の正統派、柴山紗帆・上中佑樹はパンチの効いたハードな踊りで技の切れを披露。福田の指導が行き届き、レパートリー化しうる作品に仕上がった。

一方、生成度の高さは福田(紘)の『echo』が突出している。ピアノソロからピアノ+弦、管+弦、オケと、漸次的に盛り上がるトム・ティクバの音楽に、白チュニックに白ズボンの小野寺雄、川口藍、上中佑樹、横山柊子、渡邊拓朗、福田(紘)が、ゆっくりと共同体を形成していく。上中、渡邊、福田が三方から頭をくっつけ、次に川口、横山、小野寺がくっつける、前の人の肩に手を置いて円陣。アンダンテで歩き始め、ソロ、デュオ、再び円陣。精緻なフォーメーションなのに自然。振付遂行にはどのように手を置くかまでディレクションがあり、互いの気配のやりとり、エネルギーの流れが生み出される。何をどう言ってよいのか分からないが、胸に迫った。怖ろしく緻密な思考が背後にあるのに、それを理解できる人はいない。

福田(紘)のプロダクションノート。「この世の創作物の全ては結局のところ、誰かの ‟創作物” の影響を少なからず受けて創作されていると思います. . . 音楽、舞踊、映像、そして普段の会話や挨拶の中にさえ存在する表現や影響が、人類たちの長い長いマラソンのバトンタッチの瞬間なんだな、と感じることが多いです。いつもはコンセプチュアルに考えるのが好きなんですが、今回は根源的な自分の考えをストレートに表現してみました」。前段はクリエーターとしての真っ当な認識、後段については、今作が団員としての最後の作品だからだろう。福田はこれまで数々のコンセプチュアルな作品で、思いがけない世界を現出させてきた。その精緻な思考は、今作同様、必ず有機的な感触を伴っている。福田の愛情深い性格の反映だろう。

福田(圭)のもう一つの作品『After the show』は、福田自身と石山蓮による分身デュオ。福田のパトスが強すぎてやや分かりにくい展開だが、石山のユーモア、音楽性、相手と関わる開かれた体を巧みに引き出している。柴山作品はドビュッシーの同名曲を聴いて頭に浮かんだ風景を舞踊化。少女二人(赤井綾乃、徳永比奈子)の幼い戯れが、左右のそでから吹かれるシャボン玉と共に、爽やかに描かれる。池田作品はイルマの音楽を蛭崎あゆみの生演奏で。池田自身とコンテ巧者の五月女が踊るが、クリエーションの根っこがよく分からなかった。

最後は遠藤作品。2012年東日本大震災復興支援チャリティー「オールニッポンバレエガラコンサート」で初演された。音楽は先ごろ亡くなった坂本龍一ヘンデルを使用、初演者は小池ミモザ、柳本雅寛、遠藤康行。今回は米沢唯、仲村啓、渡邊(拓)と、小野絢子、石山、山田悠貴の2組が踊った。

米沢は、ポアントワークの鋭さ、ハードで切れのある動き、筋肉美がギエムを想起。無音でのソロは凛として美しい。自分の体を確かめるよう、ポアントの刻みに耳を澄ます。3.11 鎮魂を思わせる精神性の高さだった。渡邊、仲村はサポートに終始。初演者を考えると、本来は三者が拮抗する作品と思われる。一方、小野組はトリオ・シーンに自然なストーリーを感じさせた。小野は音楽的で流れるような動き、山田、石山は、次回公演『夏の夜の夢』でパックに配役され、共に技術がある。若手の石山は研修所先輩の小野と初デュオを踊った。勘の良さ、優れた音楽性が共通し、姉弟のような美しいデュオを作り上げた。

 

東京バレエ団公演では配役に意外性があり、振付家が同僚ダンサーの新たな側面を開拓する場面が見られた。対する新国立公演は配役にムラがあり、ダンサーたちの新しい魅力が引き出されたとは言い難い(上中、石山を除く)。振付家主導になっているのか。来季ラインアップには団員振付作品上演の予定はない。NBJ Choreographic Group の行く末が気になるが、今夏完成予定の新スタジオでお披露目公演のあることを期待したい。