カイヤ・サーリアホ『遥かなる愛』(演奏会形式)2015

標記公演を聴いた(5月28日 東京オペラシティコンサートホール)。東京オペラシティ同時代音楽企画「コンポージアム2015」の一環。なぜ聴こうと思ったかと言うと、女性作曲家であることが一つ。もう一つは、6月に同じフィンランドのテロ・サーリネンのダンス公演を見るから(エサ=ペッカ・サロネンの楽曲使用)。ついでにフィンランドを代表する女性画家ヘレン・シャルフベックの展覧会にも行くことになった。
『遥かなる愛』は2000年、ジェラール・モルティエの依頼によりザルツブルグ音楽祭で初演された。題材は12・13世紀フランスの「遥かなる愛」伝説。オック語で愛の詩を綴るトルバドゥールの一人、ジョフレ・リュデルの物語である。
筋書きを読んだとき、トルバドゥールや十字軍が出てくるので『ライモンダ』を思い出した。あと『トリスタンとイゾルデ』も。
リュデルはバリトン、愛の対象クレマンスはソプラノ、二人を繋ぐ巡礼の旅人はメゾ・ソプラノが歌う。演奏会形式なので映像のみの演出(ジャン・バティスト・バリエール)。チェス盤やイスラム幾何学模様にモザイクをかけ、歌手の顔を同時撮影して組み合わせる。渦巻き状で切れ目のない神秘的な音楽と、ピタリと同期する。東京交響楽団と東京混声合唱団の生音に、エレクトロニクスを絡めているらしいが、よく分からなかった。ただ一か所、巡礼の旅人が歌うリュデル作詞の愛の歌が、妙にビブラートがかかって鮮烈な印象を残した(エレクトロニクス?)。これがオペラの原型となった『遠ク』だろうか。『遥かなる愛』の4年前に初演された女声とエレクトロニクスの曲で、オック語で歌わせ、その仏訳と英訳の語りを電子的に操作して、原詩を包むオーラのように響かせた、らしい(プログラム)。
指揮はエルネスト・マルティネス=イスキエルド、バリトンは与那城敬、ソプラノは林正子、メゾは池田香織。与那城は、トルバドゥールで領主という役どころや音楽の質を、あまり理解していないようだった。林は神秘的というよりも情熱的、池田は音楽をよく理解していた(サーリアホを聴いたことがないのに、なぜ言えるのだろう、舞台芸術の不思議)。
同じ演奏会形式でもよいから、歌手を揃えて、もう一度聴いてみたい。