アキコ・カンダ・ダンスカンパニー『愛のセレナーデ』2016

標記公演を見た(5月15日16時 東京芸術劇場シアターイースト)。カリスマ・ダンサーだったアキコ・カンダが亡くなり、残された高弟たちが、そのレパートリーを守ると同時に、新作を発表している。構成・演出の市川紅美は、ジャック・ルーシェ編曲のバッハで『遥かの道へ』、森比呂美はラフマニノフで自演ソロ『遠い声』。市川作品は、グレアムのボキャブラリーを駆使したバランシン張りのシンフォニック・ダンス。今回は床を使わず、細かいステップを刻み込んだ振付で、ベテラン達にはやや困難な作品に思われた。そうした中、唯一茶髪の若手ダンサーが、市川振付の機微をよく捉えて、作品の全貌を明らかにした(彼女は『愛のセレナーデ』にも出演したが、カーテンコールでは涙ぐんでいる様子も)。音楽性と運動性に優れた市川作品は、若手を鍛えるのに最適だと思う。一方の森作品は、アキコの抒情性を受け継いだ、ベテランならではの味わいだった。
アキコ作品は、83年の『愛のセレナーデ』(音楽:クレイダーマン)と93年の『牧場を渡る鐘』(音楽:ケテルビー)。前者は群舞、デュオ、ソロの10曲で構成され、途中フラメンコ調の振付が入る、情感を重視した昨品。10年後の『牧場』では、アキコの鋭い音楽性が際立った。グレアムの語彙が多く用いられているせいか、ダンサーたちは踊り込むにつれて、体が無意識に動き始め、巫女のような高揚感を身にまとう。観客にもそれが伝染し、劇場は祭儀的な空間に変貌した。
カンパニーの公演を見るたびに思うのは、グレアム・メソッドの威力。バレエの空間使いが基本にあるが、斜めやスパイラルの動き、床との親密性が、内側からの感情を生み出しているようだ。
Martha Hickmanによるグレアム・メソッドのクラス(YouTube動画)では、床を使った動きが、ヨガや座禅を連想させる。斜めの動きは東南アジアの踊りを、片脚を回しながら座り込む動きは太極拳を思わせる。ヒックマンは小太鼓でリズムを取りながら指導、ダンサー達にはストイックな修行者といった趣がある。他の映像ではピアノを使い、感情を表に出すようなクラスもあったので、何が正統なのか分からないが。ピラティスとの関連も言われ、ネイティヴ・アメリカンのダンスとコンセプトが近いとの指摘(Siobhan Scarry)もある。グレアム・メソッドの持つ祭儀性は、東洋起源の動きと関係しているのだろうか。