NBAバレエ団『死と乙女』2016

標記公演を見た(6月29日13時 北とぴあ)。3本立てで、どれにも和太鼓が入っている。公演としては「和太鼓とバレエの饗宴」といった趣。興味深かったのは、林英哲の太鼓が洗練され、直のエネルギーを感じさせなかったことである。4人の弟子たちも、和太鼓にありがちな、男気をまき散らすような立ち居ふるまいがなかった。新垣隆(作曲・ピアノ)、舩木城(振付)と組んだ新作『死と乙女』でも、林の太鼓(鼓のような音を響かせたりする)は、ストイックで、社会化(?)されている。新垣の方は、ダンスとのコラボレーションのため、テンポなど抑制していたと思うが、自分の快感原則に身を委ねた個所が多々見受けられた。打楽器奏者はテンポの要なので、ストイックにならざるを得ないのだろうか。
新垣の曲は、『カルミナ・ブラーナ』のような主旋律に、ストラヴィンスキーショパンシューベルト、サティなどの引用・パスティーシュを加え、変拍子を多用した激烈な音楽。舩木の振付傾向も激烈なので(ストラヴィンスキーの『春の祭典』で和太鼓とコラボしたかったらしいが、編曲の許諾が難しいので取りやめたとのこと)、合うはずだが、オリジナル曲による初演ということで、まだ音楽の腑分けが十分でない印象を受けた。一方、エゴン・シーレの『死と乙女』をモチーフに、衣装や化粧でグロテスクな美を作り出し、シーレの人物像を真似た性的な仕草を加えるなど、振付自体には舩木の意図がよく表れている。いつものように過呼吸や痙攣あり。女(岡田亜弓)にキスされて、男(久保綋一)が倒れるシーンが象徴するように、伝統的な死神と乙女とは異なり、全員が死の側にいる感じを受ける。ただこのままでは「俺はこれがやりたいんだ」という舩木の熱意が伝わるだけで、なぜシーレに惹かれるのかまでは分からない。性的な仕草も、公序良俗への反抗に過ぎないように見える。昨年のバレエシャンブルウエストでは、先行の舞台作品を援用した立体的な(社会化された)作品を、激烈に作っていたことを考えると、今回のような自分の世界を、説得力を持って作品化することがいかに難しいか、改めて思わされた。
ダンサーは適材適所の配役で、成長を促されている。林作品を彩った若手の阪本絵利奈の伸びやかな姿態、『ケルツ』(振付:ライラ・ヨーク)再演での佐々木美緒の情感、同じく大森康正の美しく切れ味鋭い踊り、郄橋真之の闊達な踊りが印象深い。ゲストバレエマスターには、元松山バレエ団の鈴木正彦を迎え、男性ダンサーのレヴェルアップを図っている。昨年の『ドン・キホーテ』でも、鈴木が大森のバジルを指導し、他団では現在見られないような細かな振付を施した。強力な助っ人誕生だ。