東京シティ・バレエ団『白鳥の湖』2016

標記公演を見た(7月9、10日 ティアラこうとう大ホール)。2年ぶりの『白鳥の湖』。石井種生版の特徴は、ストイックなまでに抑制されたスタイルと、四幕の劇的パ・ド・ドゥにある。終幕は高速フラッシュと替え玉を利用して、オデットが人間の姿に戻る結末を採用する。前回に続き、演出を金井利久が担当。ゲスト・バレエマスターにローラン・フォーゲル、民族舞踊指導に小林春恵を招いての上演だった。前回から加速したのは、かつての抑制されたスタイル(四幕はスタティックとさえ思われた)が排され、踊り自体の充実を重視するようになった点。言わば固有の文化よりも、グローバルな精神に重きをおく姿勢である。以前はあまりに禁欲的に思われたスタイルだったが、それが石井版のアイデンティティだったのかもしれない。
初日の主役は黄凱と志賀育恵、二日目はキム・セジョンと中森理恵。フォーゲルの指導は、黄の役作りにおいて最も発揮されたのではないか。これまでの絶対的な美しいラインと、気品あふれる鷹揚な演技に、王子の内面の深化が加わって、正統派ジークフリードの完成を見ることができた。惜しむらくは、技術の衰えを隠さなかったこと。正直と言えばそうだが。
志賀は身体の彫琢が極限に達している。これまで踊りの激しさとなって表れたパトスが、現在は動きのきらめき、ひらめきとなって表れている。繊細な腕使い、鮮やかな脚技が生み出す、水晶のように透明な動き。その内部には日本的心情が隠されている。昨年の1幕ジゼルは浴衣姿を想像させたが、今回も上方舞のような情緒を漂わせる和風のオデットだった。艶やかさに、悪戯っ子のような愛らしさを滲ませるオディールも、魅力にあふれる。
二日目のキム・セジョンは、美しい脚線を持つ王子タイプだが、フォーゲルの指導をまだ消化し切れていないように見える。音楽との呼応が感じられなかった。一方中森は、端正な白鳥姿に安定した技術を披露。役作りにも自分ならではの彫り込みを施して、ドラマティック・ダンサーとしての可能性を示した。
王妃は貫禄の高木糸子、ロートバルトはベテラン李悦と中堅の石黒善大。道化の三間貴範(9日)はよく動き健闘、岡田晃明(10日)は、踊り、役作り共に完成されている。パ・ド・トロワは、初日の岡博美・清水愛恵・中弥智博が、スタイルを心得た実質的な踊りを見せた。ディヴェルティスマンでは、スペインの濱本泰然の美しさ、チャルダッシュ・岡のゴージャスな迫力、同じくチョ・ミンヨン(9日)の男らしさ、同じく高井将伍(10日)の飄々とした人間性が印象深い。クラシカルで音楽性に優れたナポリの松本佳織と玉浦誠は、トロワで見たかった気がする。
指揮の井田勝大は、本拠地同様、自分の音楽を出すようになった。グラン・アダージョは少しテンポが遅すぎて、バイオリンの主旋律が崩れそうになったが。演奏は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団。主催は、9日が公益財団法人東京シティ・バレエ団、10日が公益財団法人江東区文化コミュニティ財団ティアラこうとう