フィリップ・ドゥクフレ『コンタクト』2016

標記公演を見た(10月28日 彩の国さいたま芸術劇場大ホール)。ゲーテの『ファウスト』をモチーフにしたミュージカル、と言っても、いつものドゥクフレらしい眩惑的かつ奇天烈なイメージの氾濫あり、純粋なダンス・シーンありで、音楽的要素の強いドゥクフレ作品という感じ。その場で演奏が入るため、フラメンコのような音楽と踊りの一体感がある。ノスフェル(超高音の出るロック歌手・ギタリスト)とピエール・ル・ブルジョワ(作曲家・チェリスト)の音は、増幅・フィードバックされて、二人とは思えない音の洪水を作り出す。ただし生音で聴いてみたいと思う時もあった。狂言回し風のメフィストフェレスを軽妙に演じたステファン・シヴォの渋いギター、野性味あふれるマルガレーテのクレマンス・ガリヤールは、ピアノを弾く姿も野性的だった。背中の肩甲骨がダンスのように躍動する。パリ国立高等音楽・舞踊学校卒のジュリアン・フェランディは、丸まっこい体躯の面白さと柔らかさもさることながら、天から神々が降りてくるバロック・オペラ風シーンで、カウンターテナーの美声も披露した(音楽学科を卒業?)。全員が踊れて、歌えて、芝居できて、時に楽器もできる、高度な舞台人のコミュニティが舞台に出現し、それだけで楽しかった。
ドゥクフレのインスピレーションの源は、ミュージカル映画やキャバレーショー、構成主義の美術(バレエ)など。その中で、胸打たれたのは、ピナ・バウシュへのオマージュだった。『コンタクト』はピナの『コンタクトホーフ』から採ったと言う。老若男女が楽しく踊るイメージ。ただしドゥクフレは、ピナのラインダンスをラテン的に換骨奪胎し、ドイツ的な悲劇性を払拭している。ユートピアのような人間関係のみが後味として残る、夢のようなラインダンスだった。