芸劇 dance ワークショップ 2023 発表公演『√オーランドー』

標記公演 GP を見た(12月21日 東京芸術劇場 シアターイースト)。講師・構成・振付・出演は中村蓉、原作はヴァージニア・ウルフの同名作、出演はワークショップ参加者15人で、ダンサー、俳優、劇作家、勤め人、看護師、研究者、学生が含まれるという。2か月の期間中、現代美術の浅野ひかり、中国語中国文学研究者の三村一貴、現代美術の AKI INOMATA、海獣学の田島木綿子の各氏を招いて、原作へのアプローチを深めた。

ロビーには木材でできたクリスマスツリーが飾られ、ある参加者によるリハーサル日記、参加者たち所有の原作本、リハーサル写真、緒方彩乃(アーカイブ作成・演出振付アシスタント・舞台美術)によるリハーサル・イラストが展示された(GP 当日はまだ展示がなかったため、本番を見た知人の写真から)。通常想定される「コンテンポラリーダンスを一般の人たちが踊る」といったワークショップではなく、中村のクリエーションに参加者を引きずり込むワークショップだったことが分かる。

原作は、エリザベス朝から20世紀初頭まで、男から女に変身しながら樫の木のある大邸宅と共に生きたオーランドーの長い生涯を、伝記作家が綴る形式。作家で貴族、バイセクシュアルだった友人のヴィタ・サックヴィル・ウエストと、その一族に捧げられたオマージュである。

原作へのアプローチは、前作『f マクベス』と同じ、要となる原文を抜き出して、身体技法へと結びつける方法。前作と異なるのは、出演者がダンサーではなく、多種多様な職種の人物だったことである。ピナ・バウシュ風の出演者インタビューが行なわれたようで、看護師による寝たきりの人(昏睡状態のオーランドー)への介護実践、経済学者による運ばれながらのオーランドー経済分析、さらに講師の三村氏に扮した俳優が文筆家のニック・グリーンと化すなど、それぞれの職業を生かした場面が散見された。さらにチアリーディングや日舞経験者の身体技法も取り入れられている。舞台中央の樫の木に似せた大木には、チアの緑のポンポン、日舞の白扇が松葉状に飾られ、赤いシフォンの布が掛けられている。昏睡から覚めたオーランドが女性になり、それぞれの小道具を使って踊ることになる。

発話しながらの動きが多く、タンツテアターと言えなくもないが、中村及び参加者のオーランドー解釈への集中、身体への意識が強力で、言葉の多いダンス公演という印象だった。相手の動きを逐一実況する喧しい場面、ほぐれるユニゾン円など、ワークショップの成果が見られるなか、独立した舞踊シーンとしては、卵焼きの味付けから世界観の異なる人と暮らせるかについて、シンメトリーで語り踊る男女デュオが優れていた。最後はジタバタと転がりながら子どものように叫ぶ。中村の愛の形が見えた。

その中村は中ほどでソロを踊る。小津安二郎監督『晩春』の名場面、父(笠智衆)と娘(原節子)が結婚前に京都に旅をし、娘が結婚しないで父と暮らしたいと思い詰めたように話す、その語りで踊る。オーランドーの結婚についての逡巡を、中村が原節子と結びつけたわけだが、ぜい肉のない中村の体は深く内向して、日本的な身体となった。父の説諭に対し、原は「ええ(うんに聞こえた)」と答え、「わがまま言ってすみません」と謝る。これに同期し、中村は「うん」と頷き、向こう向きで首深くうなだれる。その背骨を頂点とする透き通った枯れた背中は、室伏鴻のそれを思わせた。ワーグナーの結婚行進曲が流れ、ひしゃげる中村。

ワークショップ発表公演としては、参加者の新たな地平が切り開かれたこと、個々人の個性が掬い上げられたことがよく分かり、ダンス公演としては、中村のソロ(禁じ手かもだが)、卵焼き男女デュオを筆頭に、クリエイティヴなシーンを多く見ることができた。クラッピングと水滴、ブラームスのワルツ、メトロノームなど、楽曲構成も素晴しい。Eternal Dance(Takasago)楽曲制作は廣庭賢里。