東京文化会館『眠れる美女』2016

標記公演を見た(12月10日 東京文化会館大ホール)。東京文化会館開館55周年・日本ベルギー友好150周年記念公演。川端康成の原作をクリス・デフォートの音楽、ギー・カシアスの演出、エンリコ・バニョーリ&アリエン・クレルコの美術(バニョーリは照明も)でオペラ化した作品。台本はカシアス、デフォートにドラマトゥルクのマリアンヌ・ヴァン・ケルホーフェン。2009年5月8日にベルギー王立モネ劇場で初演された。今回見た理由は、まず川端の原作であること、江口老人に長塚京三、女に原田美枝子と好みの役者が配され、さらに初演ダンサーの伊藤郁女が出演するからだった(振付のシェルカウイは理由に入らず)。
開演直前、公立の文化会館としては、細川俊夫音楽、平田オリザ台本・演出の『海、静かな海』(2016年1月24日 ハンブルグ州立歌劇場)を持ってくる方がふさわしいのでは、と思ったりしたが、開演してすぐに、優れた舞台だと分かり、集中して見ることができた。美術は巨大な雪見障子と畳、障子が上下に開閉し、伊藤が宙吊りで動くのを見せる。紅葉、霙、雨の映像を投影。老人と女主人は役者と歌手(バリトン、ソプラノ)の二人一組、眠れる美女は伊藤とコーラスの4人が担当した。指揮はパトリック・ダヴァン、管弦楽は東京藝大シンフォニエッタ。音楽は武満/細川とブリテンを合わせたような現代曲で、途中なぜかバロック風の曲が挟まれる。常套的ではなく、正攻法に作られた音楽だった。演出も日本的な間を違和感なく取り入れ、役者の動き、歌手の動きも静か。改めてオペラの伝統の厚みを思い知らされる。新作オペラが演劇と同じように当たり前に作られている。
老人のオマール・エイブライム、女のカトリン・バルツが素晴らしい歌を聴かせる。しかし原作の湿度は、歌唱に反映されない。類型的な歌い方。長塚と原田も洋風(当たり前か)。原田の衣裳はロングドレスだったが、第一夜は長い裾を担ぎ、第二夜は右腕に引っかけ、第三夜は裾を曳いて、長塚を絡め取った。長塚は知的。声に色気があり、大きい舞台に耐える佇まいだった。
伊藤は、上方に吊られて、力技を見せていた。一人位相が違うのは、演出意図か、それとも言葉なしに体を使うダンサーゆえか、または肉体野獣派の伊藤ならではか。第二夜で前転し続けるところや、第三夜のレスリング風の床遣いなど、下の舞台への批評に見える。平気に動く野蛮さ。美しく洗練された舞台を、自らの肉を差し出して、現実に繋ぎとめる要となった。