新国立劇場バレエ団『シンデレラ』2016

標記公演を見た(12月17, 18, 19, 23昼夜, 24, 25日 新国立劇場オペラパレス)。99年バレエ団初演、10回目のアシュトン版『シンデレラ』である。デヴィッド・ウォーカーの美術(87年 英国ロイヤル・バレエ)、沢田祐二の照明が、陰影に富んだ繊細な美を表現する。炉辺の暖かい家庭的雰囲気、小姓を従えた妖精たちが踊るロココ調自然風景、華やかな宮殿、星空のバルコニー、それぞれが素晴らしい。さらに指揮のマーティン・イェーツが、濃淡の微妙に織り合わさったプロコフィエフの美しい音楽を、東京フィルと共に紡ぎ出した。音楽のみで満足できる十全な演奏だった。
今回は、振付指導にマリン・ソワーズ(Malin Thoors)を招き、パワフルな舞台を展開。ウェンディ・エリス・サムスの指導時には、アシュトンの詩的な側面が強調され、緻密に練り上げられたドラマが舞台に息づいたが、ソワーズの演出では、全員が主役の如き熱演。マズルカはバランシン張りにフルに踊られ、脇役も全力投球、舞台の全てを見ることができた。諧謔味も以前より増して、英国風のエクセントリシティが際立っている。あちこちで同時に芝居をするので、毎回発見があるが、今回は、一幕のダンスレッスンの後、教師が義理の姉娘に振りを付ける場面(カミテ)、二幕のナポレオンかつら事件の後、ナポレオンに父親が質問をする場面(カミテ)、二幕のシンデレラ・ソロのマネージュが、最初は四角、二回目が丸、ということに気が付いた。


シンデレラには、小野絢子、米沢唯、長田佳世、柴山紗帆、池田理沙子、王子には、福岡雄大、井澤駿、菅野英男、渡邉峻郁、奥村康祐。いずれもスタイル、技術に秀でた主役ばかり。四季の精、王子の友人も総じてレベルが高く、クラシック作品を上演するバレエ団として、充実期を迎えつつある。
小野のアシュトンらしい細かいフットワーク、コミカルな可愛らしさと清潔なオーラ、米沢の自然な芝居、クラシック時の能を思わせる身体+岸田劉生の「デロリ」感、長田の自然な感情表現、生きた脚、時空間を生み出すパの遂行、柴山の清潔でクラシカルな踊り、池田のコケティッシュな可愛らしさ。キャリアでは末っ子の池田は、小野、米沢の深い役作り、長田、柴山のクラシック技法の追求を、逆説的に明示する。現在、地の魅力で舞台を務めているが、今後どのようなアプローチを見せるのか、見守りたい。
長田は今回の舞台で退団となった。長田の魅力は、クラシカルに分節された肉体にあった。パ・ド・ブレやアラベスクのみで、感情を伝えることができる。隅々まで意識化された脚は、『白鳥の湖』で、またコンテンポラリーの『Who is “Us”?』(振付:中村恩恵)で魅力を発揮した。特に後者では、森下洋子の全盛時の脚を思わせたほど。音楽と一体化した踊りに、持ち前の誠実さが加わり、常に気持ちのよい舞台を作り出した。舞台に立つことの掛け替えのなさをいつも心に置いていたのは、カーテンコールでの深いレヴェランスによっても知ることができる。昨年、金平糖の精で見せた無私の境地、今年のルビーのゴージャスな踊りは、ダンサーとして円熟の極み。心を込めたシンデレラと共に、長田が辿り着いた最終ステージである。
王子(出演順)の福岡は、踊りの切れと小野との強力なパートナーシップ、井澤はスケールの大きいダイナミックな踊り、菅野は半ばバレエマスターに見えたが(友人達への視線)、長田の最後をサポートする役目を果たした。初役の渡邉はノーブルなスタイルを体現。パートナーへの気配りも万全で、ダンスール・ノーブルとしてのみならず、ドラマティックな役どころにも期待を抱かせる。同じく初役の 奥村は、新人の池田を支える優しい王子だった。

第二の主役、義理の姉たちは、一幕活性化の鍵を握る重要な役である。小口邦明と宝満直也の初役コンビ、古川和則と高橋一輝の再演コンビが重責を担った。前者は動きの切れ、後者はコミカルな演技で見せる。小口は優しさ、宝満は女形の味わい(美人)、古川はキャラクター化した全人格、高橋は哀しげな笑顔で、舞台の要となった。全員が芝居を楽しんでいる。仙女は、本島美和の円熟の役作りが抜きん出ている。背中で芝居ができる役者。細田千晶は美しい踊りに包容力が加わり、初役の木村優里は万全の踊りと存在感で、大物ぶりを発揮した。父親には、真率な演技で父の愛情を示した輪島拓也。道化・福田圭吾の愛情深い献身、同じく木下嘉人のウイットに富んだ役作り、ナポレオン・小野寺雄の動きの美しさも印象深い。クラシカルな踊りでは、柴山(春の精)、奥田花純(秋の精)、中家正博(王子友人)。また新人の浜崎恵二朗がティボルト系ノーブルな踊りを見せて、王子友人への抜擢に応えた。