新国立劇場バレエ団 『不思議の国のアリス』 新制作 2018 ②

主役は2キャストが組まれた。初日アリスの米沢唯は、目前に現れる不思議に対して、生き生きとした好奇心を見せる。体が大きくなったり縮んだりする飲み物・食べ物への思い切りのよさ、動物たちとのにぎやかな駆けっこ、ジャックとのみずみずしいデュエット。毎回アリスの冒険が新たに生きられている。対するジャックの渡邊峻郁も役を生きるタイプ。アリスへの優しさ、解雇された時の失望、そして裁判での必死の申し開きソロ。悲しみや苦しみが踊るにつれて徐々にエネルギーへと変わっていく。最後は自分の潔白を胸を張って主張、アリスとの勇気に満ちたパ・ド・ドゥへとなだれ込む。アリスを体で受け止める優れたパートナーでもあった。
二日目の小野絢子は、英国的ウィットを忍ばせる造形。持ち味の少女らしい可愛らしさと、状況のおかしさを批評するディタッチメントがあるため、原作のおしゃまなアリスを連想させる。振付のパをきちんと見せるのはいつも通り。もう少しコメディに振れると、小野のとんでもない面白さが出るかもしれない。対する福岡雄大は自然体。庭師からハートのジャックまでを悠然と演じる。裁判でのソロは勇壮で熱く、ビントレー版『シルヴィア』のアミンタを思い出した。古典とは異なり、地に沿った造形。「漢(おとこ)」だろうか(2018/2019シーズンバレエプログラム参照)。
ルイス・キャロル/白ウサギの奥村康祐は、キャロルの陰影よりも白ウサギの愛らしさに持ち味を発揮、じわじわと広がる不思議な存在感がある。同役の木下嘉人は、キャロルの複雑さ、白ウサギの一歩引いた批評性に持ち前の俯瞰力が生きた。清潔なバットリーも見応えあり。アリスの母/ハートの女王は3キャスト。ゲストのエイミー・ハリスはダイナミック、本島美和はツボを押さえた演技と踊りの美しさ、益田裕子はコミカルで直情的、と実力を発揮した。アリスの父/ハートの王は、初日の輪島拓也が英国伝統の弱い王を好演、ウィスキーを飲む、新聞を読む仕草が様になっている。妻への微妙な態度も巧みだった。二日目の貝川鐵夫は、やや亭主関白でエネルギッシュ(飲み過ぎか?)。下ネタは品よく控えめに。
手品師/マッドハッターは3キャストだが、ゲストのジャレッド・マドゥン、菅野英男しか見られなかった(他日は福岡雄大)。初演者マクレーのタップダンス技術を生かした振付を、経験者のマドゥンはよりショーアップして、菅野はクラシカルな美しさを武器に踊っている。ラジャ/イモ虫初日の井澤駿は、無意識を纏った肉体の色気と柔らかな踊りが女達を吸い寄せる。「?」そのものだった。二日目の宇賀大将は持ち味の男らしさを発揮し切れず、再演に期待する。侯爵夫人の吉本泰久は和風で実直、輪島は大胆、英国らしい破天荒な女装役で、芸の磨き甲斐がある。
その他ソリストたちも順当な配役。中でも、料理女の本島はマッジを思わせる突き抜けぶり、カエルの福田圭吾はカエルに見えた。3人の庭師 小野寺雄の音楽性、同 渡邊拓朗のノーブルな大きさ、また執事/首切り役人の貝川と中家正博がダークな存在感を見せる。中家はアンサンブルでも踊りの正確な美しさを誇った。トランプ・アンサンブルの切れのよさは(初演映像を見る限り)、本家を凌いだのではないか。
指揮のネイサン・ブロックはタルボットの音楽を余すところなく実現。休憩中もお浚いに余念のない東京フィルと共に、真っ直ぐなエネルギーを劇場内に充満させた。 ①はこちら