米沢唯 ✕ 島地保武 @「音楽×空間×ダンス」GP 2021

標記公演ゲネプロを見た(2月27日 音のふりそそぐ武蔵ホール)。会場は、西武池袋線武蔵藤沢駅にある八角形の音楽ホール。ゲネのため2階から見た(聴いた)が、井戸をのぞき込むような態勢で、音がふりそそぐ、というよりも、地面から湧き上がる印象だった。ダンスも造形ではなく、気配や気の漲りが前面に出る。プログラムが分からないまま(メモ取りもせず)、音と踊りのうねりに身を任せる稀有な経験をした。後日入手したプログラムは以下の通り。

〈第一部〉

●木ノ脇道元「UKIFUNE」(フルート:木ノ脇、ピアノ:松木詩奈)

笠松泰洋「The garden in the South, or solitude」(ダンス:島地保武、ピアノ:松木

●J・S・バッハ 無伴奏フルートパルティータより "Corrente"(ダンス:米沢唯、フルート:木ノ脇、振付:島地)

ドビュッシー 前奏曲集第1巻より「デルフィの舞姫達」「アナカプリの丘」「亜麻色の髪の乙女」(ピアノ:松木

●即興演奏×ダンス(ダンス:米沢、ピアノ:笠松

〈第2部〉

●木ノ脇道元「月は有明のひんがしのやまぎわに細くていずるほどいとあはれなり」(ダンス:島地、フルート:鎌倉有里、畢暁樺、棚木彩水、アルト・フルート:中村淳、バス・フルート:木ノ脇、ピアノ:松木

シューベルト 3つのピアノ曲D946より第二曲(ピアノ:松木

●即興演奏×ダンス(ダンス:米沢、島地、フルートなど:木ノ脇、ピアノなど:松木、ピアノ/オーボエなど:笠松松木の持つ小さい箱、抑える or 弾くとチェレスタのような音がする

 

バッハ、シューベルトドビュッシー、さらに木ノ脇、笠松と、楽譜はあるが即興と地続き。木ノ脇、笠松の曲は、その場で音を生み出す生成感が強く、西洋古典曲には奏者(木ノ脇、松木)の即興性が乗り移ったようだ。音楽とダンスがぶつかり合い、挑発し合うクリエーションの熱気が、終始 空間を満たす。

米沢は3曲、島地も3曲 踊った。唯一振付があるのは、島地がバッハに振り付け、米沢が踊ったCorrente。バレエをベースにしたフォーサイス崩しだが、島地の原始的な可愛らしさが加わる。米沢の粘りのある四肢、特徴的な指使いが、ハードな振付に柔らかさを与えた。動くたびに不思議そうな表情をするのは、島地の指示か。木ノ脇と体でコミュニケーションをとる余地もあった。島地のバッハ解釈というよりも、バッハと正面から対決する振付だった。

即興では、二人は対照的だった。米沢はメロディーに反応し、そこから動きを生み出すが、島地は音を体に入れ、音の形に反応する。米沢は周囲とコミュニケーションを取ろうとするが、島地はそれを覆そうとする。米沢のクネクネとした半意識の回転を、島地は「おっ」と言いながらサポート。米沢に操られ、操り返し、空間に切れ目を入れていく。フルートとの声の対決も。米沢の空間を動かす気の力、島地の原始的素っ頓狂な佇まいに、奏者たちの音も全開になった。中盤、米沢が舞踏風に蠢き、無意識になる瞬間があった。米沢の新たな可能性を見た気がする。

誰もが自分に素直でいられる、生まれたままでいられる空間。主催者 笠松人間性が大きく作用しているのだろう。ゲネ直前に最後の即興リハが行われ、ゲネでは繰り返さないことになった。だが、木ノ脇作品の島地に触発された笠松は、「最後の即興もやろうか」と言い出す。米沢が「島地さんが踊りすぎになるのでは」と懸念を示したところ、笠松「島地さん、いい?」、島地「いいです」となり、行うことになった。その前に松木シューベルトがあったが、すっ飛ばしそうになった笠松に、松木は「弾きたいです」と言って、熱狂的なシューベルトを弾く。松木はその後の即興でも、熱い演奏を聴かせた。笠松「本番に取っておこうと思ったんだけど、ついやってしまった」。本番では また別の熱い空間が生まれたのだろう。