NBAバレエ団『ドン・キホーテ』新制作2023

標記公演を見た(12月23日昼夕 所沢市民文化センターミューズ マーキーホール)。演出・改訂振付:久保綋一、岩田雅女、安西健塁、衣裳デザイン:西原梨恵、照明プラン:TOMATO JUICE DESIGN / 山本高久、舞台美術デザイン:安藤基彦という布陣。西原デザインのシックな色使い、チュチュの洗練された美しさに目を奪われた。扇子のデザインも美術品の如く。舞台美術は夢の場のクリスタルな唐草模様が印象的。3幕広場のランタンは暖かさと懐かしさを呼び起こした。

構成はプロローグ、1幕バルセロナの広場、2幕酒場と夢の場、3幕バルセロナの広場。ジプシー野営地はなく、夢の場も森ではないため、森の女王は登場しない。1幕街の踊り子ナイフ巡り、サンチョパンサの毛布投げ、3幕ボレロファンダンゴもカット。ガマーシュの出番を増やし、3幕コーダを全員で踊るところは、バリシニコフ版と共通する。

一方、ガマーシュを踊る役に設定し、酒場の酔っ払い男をジーグで踊らせ、酒場のおかみとガマーシュの恋を描くなど、大胆なカットを補って余りある新演出が続出する。最大の見どころはドン・キホーテ夢の場。若き日のキホーテ、アロンソ・キハーノ(別配役)が登場し、ドルシネア姫(同)と美しいパ・ド・ドゥを踊る。1幕メヌエットの変奏(冨田実里編曲)がロマンティックに奏でられ、コンラッド風のキハーノがチュチュ姿のドルシネアを凛々しくサポートする。老いたキホーテの抱く若い精神を具現化した名場面。同団の『海賊』同様、演出家 久保のロマンティシズムが横溢した。

団員振付家の岩田は、流れるように絡み合う夢の場パ・ド・ドゥを振り付けて、二人の愛を雄弁に歌い上げる。同じく安西によるガマーシュ振付、酔っ払いジーグ、アンサンブル振付は、超絶技巧に加え、キャラクター色濃厚で巧み。二人の振付家の今後が期待される。新演出・新振付満載ながら、古典の格調を保っている点は、バリシニコフ版との大きな違いである。1幕伝統的マイムの音楽性、演劇性の素晴しさ。同団がかつてヴィハレフ版『ドン・キホーテ』を上演した際の遺産だろうか。

キトリとドルシネア姫は、本公演後プリンシパルに昇格した勅使河原綾乃と山田佳歩の交互配役。共に高い技術を誇り、チュチュ姿には気品と風格がある。勅使河原は鋭い回転技、山田はくっきりとした明快なラインが持ち味。演技面においても進境を示しており、今後が期待される。対するバジルは3キャスト、そのうち北爪弘史はノーブルな踊りに行き届いた芝居、新井悠汰は切れ味鋭い踊りと優しさで、新制作の舞台作りに貢献した(孝多佑月は未見)。

エスパーダとアロンソ・キハーノは宮内浩之と刑部星矢の交互配役。宮内はスタイリッシュなエスパーダ、気品のあるキハーノを、刑部は濃厚なエスパーダ、ノーブルで情熱的なキハーノを演じて、舞台の華となった。メルセデス(街の踊り子込み)は姉御肌の浅井杏里、華やかな渡辺栞菜、ドン・キホーテは鷹揚で愛情深い古道貴大、ノーブルな安中勝勇、サンチョパンサは芸達者の安西健塁、可愛らしい佐藤史哉、ロレンツォはどっしりとした多田遥、男らしい内村和真の配役。

踊るガマーシュには、正統派の踊りとコミカルな演技の高橋真之、癖のない踊りとすっとぼけた演技の三船元維が配された。1幕の伝統的マイムから、2幕キホーテとの決闘、酒場のおかみとの恋模様、3幕トレアドールたちとの闊達な踊りまで、見せ場が続く。本作で退団する高橋にとってはなむけの役となった。超絶技巧を酔っぱらって踊る酔っ払いにはベテランの大森康正と安西。大森はロシア正統派の酔っ払いを悠々と演じ踊る。バジルの狂言自殺を見ているのは彼一人、そのおかしみに演者としての懐の深さを感じさせた。踊りの切れは言うまでもない。対する振付家の安西は奇矯さが際立つ。臭うようなサンチョ共々、珍しいタイプのキャラクターダンサーである。

キトリ友人は、大島沙彩と米津美千花、市原晴菜と鈴木恵里奈、キューピッドには軽やかな須谷まきこと明るい米津、酒場のおかみには太っ腹で鉄火肌、振付家の岩田が配された。伊藤龍平、本岡直也率いるトレアドールはノーブルで切れ良し。元気なセギジリア・アンサンブル、たおやかな夢の場アンサンブルは、スタイル、音楽性ともよく揃っている。

指揮は磯部省吾、演奏はNBAバレエ団オーケストラ。冨田編曲を加えた新たな楽曲構成を、機動力豊かに生き生きと奏している。